ジッポを点け、煙草の先端に火を灯し、煙を吸って吐き出す。
いつもの行為なのに、どうも落ち着かない。
原因は分かっている。これでも上忍だ。
先程からいのがこちらの顔をじっと見つめてくるのだ。
いつも澄んだ青い瞳の眼差しが、わずかに熱く潤んでいるようにも感じられる。
人によっては初恋と表現するのだろう。思春期の少女が身近な男性に対して憧れを抱く、はしかにも似た症状であると。
しかしアスマはいのが自身にそんな思いを抱いているとは思っていなかった。
いのの目はどちらかというとドキドキではなくワクワクしているような感じなのである。
というか眼差しを丹念に辿ってみると、いのは正確にはアスマの顔ではなく口元の煙草や手元のジッポを見つめているのだ。
まさか吸いたいのではなかろうか、と考えが至る。
だが、それが真実だという確証も無い。
相手は別に敵ではないし、直接言って尋ねる方がいいかと、アスマは結論を出した。
「……どうした、いの。まさかこれ吸いたいのか?」
冗談交じりに言うと、いのはふるふると首を横に振った。
「煙草じゃなくてね」
「? じゃあ何だ?」
「先生の、ジッポを出して火を付ける仕草が好きなの」
衒い無く告げて、いのは満面の笑みを見せる。
自分より遥かに年下の少女が伝えてくれた無邪気な好意に、アスマは思わず笑みを零した。
「有り難うよ」
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