「二十歳か。あっという間だったな」
「そうね」
「いの」
「何?」
「覚えているか? 何年か前の約束」
「……何年か前って随分と曖昧ね。ちゃんと覚えていないなんて、真面目に考えていなかったっていう証拠なんじゃない?」
「って事は覚えてくれているんだな」
「どーかしらね。何だったかしら、鯖の味噌煮定食を奢るんだったっけ?」
「俺と結婚してくれ」
「嫌よ」
「何で」
「理由なんて明らかじゃない」
「お前は俺を愛してくれるだろ」
「でもあんたは私の事が好きじゃない。……恋愛と友情の区別もつかない奴に結婚の申し込みなんてされたくないわ」
「けどよー、もういい加減に相手を見つけろって母ちゃんがしつけェんだよ」
「おば様が言うから仕方なく相手を選ぶの? 違うでしょ。自分から探して出会っていくものでしょ。そこで私を頼っちゃ駄目よ」
「駄目か?」
「駄目」
「そっかぁ……んじゃ真面目に他の相手を探してみるか」
「それがいいわ」
「……っ、なあ」
「何? どうしたのシカマル、何かいきなり顔が真っ青よ」
「今ふと思ったんだけどよ、お前、俺以外の男と結婚したら、手を繋いだりキスしたり、その先もやったりして、それで子供ができたら幸せな家族を作っていくのか?」
「当たり前でしょ。まあ大抵の女が描く幸せパターンはそれね」
「嫌だ」
「え?」
「……お前が俺より他の男を優先して、そいつと手ェ繋いだりキスしたりその先に進んだりしてガキ作って、――そしたら俺の事は後回しになるんだろ? 絶対に嫌だ」
「それは仕方ないわよ。だって私の優先順位は私が決めるもの。子供や夫が先になるのは必然でしょ」
「嫌だ」
「あんたもそうなるわよ」
「まあ、な」
「でしょ?」
「確かに俺がいのと結婚したら、いのといのとの子供が最優先になって、つまりは子供や妻が先だ」
「ちょっと待ちなさい」
「何だよ」
「あんたは、私にあんたを最優先にさせたいから、私と結婚して欲しいの?」
「ああ」
「何よそれ……」
「けど俺、いのと手ェ繋ぎたいしキスしたいしその先もしたいし、……いのとの子供も欲しい」
「馬鹿じゃないの」
「俺は真面目だぞ」
「良く考えて。今までと同じように私があんたを最優先にさせたら、たとえ結婚したとしても、それじゃ単なる幼馴染みの延長線上よ」
「別にいいじゃねえか」
「幼馴染みと夫婦は違うのよ」
「だーかーらー、幼馴染みから夫婦になってもいいじゃねえか」
「駄目」
「何でだよ」
「最優先とか、そんな打算で結婚なんてしたくない」
「打算なんかじゃねーぞ。全部ただの感情だ」
「……」
「いの、――愛している。俺と結婚してくれ」
「どれくらい好き?」
「世界で一番。愛している」
「引っかかって好きとは言わなかったわね」
「悪い、今のとこちょっと打算だった」
「いいわよ」
「で、さ。あの日の約束、まだ有効か?」
「……キープしておいているわよ。私の隣はね」
「……有り難うな。……これからも宜しく」
「こちらこそ。ね」
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