「誕生日おめでとう、シカマル」

「ああ。さんきゅ」

 また一つ、年を重ねた。

 子供から遠ざかって、大人へと近づいていく。

 否が応でも。

「なあ、いの。今日さ、俺の誕生日だよな」

「……何? 寝ぼけてるの?」

「違ェよ。ちょい聞いて欲しい頼みがあんだけどよ」

「誕生日なんだから何でも聞いてあげるわよ。で、何?」

「もしこれから二十までに俺が本気で惚れて結婚したいって思う相手が現れなかったら、お前が俺と結婚してくれるか?」

「……何それ」

 いのは釈然としない表情を浮かべた。

 それでも先程に「何でも聞いてあげる」と言ったのは自分だ。溜息一つで押し殺し、

「まあ……誕生日だしね。いいわよ」

 ぽつりと素っ気なく、それだけを返した。

 背後から、父親達の騒ぐ声や物音や気配が伝わってくる。

 その騒がしさとは裏腹に、縁側に腰掛ける主役の二人の間にはただ沈黙がたゆたい漂う、少し冷たい秋風の吹く夜だった。


 

 



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