この星がだいぶ昔に滅びたことは知っていた。 だから、その日は遺跡を探して空を飛び回っていたのだ。 でも、遺跡なんてあるわけもない。 砂が生き物のように星を食べている。 もう、諦めようか。そうした中で光るものを見つけたのだ。 近づいてみればそれは建物で、青い光を反射させている。 まるで、僕らの星みたい。 僕は降り立ち、そしてラズリへたどり着いた。 嗅いだことのない甘い匂いの中、クラウンのジョウロを持った人が立っている。 そして、君は振り向いた。
「おや、人なんて何年ぶりだろう。いらっしゃい」
そうして笑んだ君を見たときの衝撃ったら。 きっと、君は知らないでしょう。
外の砂嵐の音など聞こえないというのに、耳には変な雑音が混じっている。 まさか、ネザーが。 一緒にいた男を。 僕には信じがたい話だ。
「ネザー、嘘でしょう?」 「事実だよ、ロップイヤー。現に彼はここにいない」
やはり、彼は美しく笑んだ。 この楽園のどの花よりも君が綺麗。 だから、信じられなくて脳が拒んでいる。 天井の葺かれた青がやけに滲んで見える。
「さあ、ロップイヤー。わかったろう?君は、もうここへ来てはいけない。早く、お帰り」
そんなことを言わないで、ネザー。 僕は、君をここから救いたいんだ。 孤独をものともせず、ただこの青い楽園を守る君の呪縛を解いてあげたい。 世界は広い。ここを終着点にするなんてもったいないよ。
「ロップイヤー?」
眩暈がする。 耳鳴りも大きくなった。 君の言葉を理解したくない。 君をここから、
「ロップイヤー!」
僕の体が傾いて、地面に吸い込まれていった。 固いラズリの地にぶつかる瞬間、ネザーの腕が僕を抱きとめる。 君の呼ぶ声がしたけど、耳鳴りだったかもしれない。
「ガスのせいだ。死ぬなよ、ロップイヤー。大丈夫、幸いここには解毒剤があるんだ」
僕を地面へ寝かせて、ネザーが離れていく。 忙しなく動き回っていたかと思うと、月光色の花を摘んできてそれを絞った。 そんな泣きそうな顔をしないで、ネザー。
「君まで死ぬな、ロップイヤー」
蜜の匂いがする。 ネザーの声が僕を呼ぶ。 意識が朦朧としていく中、ネザーの姿がぼんやり映り、ラズリの天井が見えた。
嗚呼、ここはいつだって青空だ。眩しすぎて、目が痛い。
「これを飲んで」
ネザーが口移しで飲ませてくれた花の蜜は、僕がラズリへ初めてきたときの匂いだと思い至る。 そして、それを最後に僕は完全に意識を手放した。
黄昏唄 -4- その口付けが泡沫となる時に
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