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「あ!またやっちゃった……」
鏡を覗きこんで、目蓋の上に引かれたラインを見る。 デコボコで、どう見たって綺麗だとはいえない。 お化粧なんてし慣れてないから、どうやっていいかわからない。 とりあえず、買ってきた雑誌を見ながらやっているけれど、ここで笑ってるモデルさんみたいに綺麗にならない。 でも、がんばらなくては。
全ては、稲峰さんのために!!
事の起こりは、一週間前だ。 稲峰さん家で夕飯の片付けを終えた私は居間へと戻ってきた。 稲峰さんはといえば、ハルトと一緒にお酒を飲みながらテレビを見ている。
「そういえば、お前高校ん時この女優好きだったよな」
ハルトが何気なく呟いた言葉に、私の耳がピクリと動く。 テレビを見れば、春の特別番組でドラマの宣伝をしている加々美あや子が目に入った。 綺麗な人だ。中堅女優として有名な人で、ドラマや映画なんかで活躍している。演じる役はキャリアウーマンだったり、社長夫人だったり、自信に満ちた才覚溢れる女性なことが多い。 なるほど、稲峰さんはこういう女の人が好みなのか。
「そうだな。綺麗な人だからな」
稲峰さんがお酒を含みながら、ぽつりとこぼした。 稲峰さんは綺麗な女の人が好きなのかな。 加々美あや子は、モデルもやっているから背も高めだ。それに比べて、私は高校生になっても150cmしかない。 加々美あや子は、大人の女性を具現化したような女性で、憧れる女性も多い。それに比べて、私は童顔でいまだ小学生でも通る。 何から何まで正反対にしたような女の人だ。 稲峰さんは大人の女の人が好きに違いない。
だから、私は決めたのだ。 稲峰さんのために、綺麗に、そして大人になってみせると!!
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