ヒー イズ ノーウェア









どうにもならないことはあるものだ。
僕は今まさにその状況に追い詰められている。
目の前には、足のない蛇が泳いでいた。
そいつが、僕に言う。

「真実を穿て」

僕には、その言葉が到底理解できなかった。
真実とは何をもってしてそういうのか理解らなかったからだ。
何に対しての真実か。
僕がそれを考えている間に蛇はどこかへ行ってしまった。

それを考える前に僕は、この現状から脱出せねばなるまい。
そうしなければ、明日をも生きられないかもしれない。もちろん、真実だって穿てない。
翅は水に濡れ、生まれたての小鳥のように何もできないでいる。
でも、脱出する方法もわからずここでただ浮かんでいる始末だ。
小さな気泡が向こうで上がった気がした。

では、僕はどうしてこうなってしまったのか考えてみよう。
まず第一に僕の怠慢が原因だろう。
怠慢とは恐ろしい。普段はあまり働きもしない脳がフル稼働してどうやってサボタージュすべきか考えに考える。
そうして、僕は指令通りに動く。
指先の末端まで、脳に従う。
しかし、脳のせいにするわけにはいかない。
脳は確かに僕に命令するが、僕は僕の意思でもって動いているわけだから、全てはこの頭の中身のせいではない。決して。
気泡がだんだん近づいてきた。

相変わらず翅は動かない。
脳はサボタージュするときばかり指令を送る。
僕がこの状況を打開する方法を考えてはくれないのだ。

「真実は見つかったか?」

すぐ近くで声がした。
水にぬれてしまった目玉を動かせば、そこになまずがいる。
ヌメヌメと肌が光り、大きな口を時折モグモグと動かしていた。
気泡の正体はこいつだったらしい。

「まだ見つからないよ」

僕がそう答えれば、なまずは大きな口を開けて僕へと迫ってきた。
食べる気なのか。
なまずの口の中には、小さな骨が入っていた。

「僕を食べるのかい?」

「ああ。お前を食べるよ。真実は永遠に闇の中さ」

僕はなまずの口にぱくんと食べられた。
やはり、こんな状況に陥っても脳は僕を助けてくれない。

世の中、僕の力だけではどうにもならないことがあるのだ。





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