夜の夢 −椿の葬列− 真っ赤な絨毯が敷かれている。 暗い道なのに、そこだけぼおっと火を放ったように明るい。 赤い絨毯は、椿の花だ。 どこまでも点々と続いて、ここからだと終わりが見えない。 俺は一歩踏み出す。 柔らかな椿の花びらを潰すたび、饐えた様な臭いが広がった。 きっとこのままだと頭がおかしくなる。 それでも、俺は歩かなくてはいけないのだ。 一歩一歩、足を踏み出すたびに錘のように重くなる。 先はまだまだ見えてこない。 そのうち、椿の花とは別の感触のものを踏み潰した。 何かと思い足を上げれば、足元に転がるのは黒い塊。 いや、これは軍服だ。 軍服を着た人間だ。 白い肌、長めの睫毛、真っ黒な髪。 左手だけ手袋が脱げていた。節張った指、俺よりも少しだけ長くて細い。 俺は一瞥をくれて、また歩き出す。 (お前が死んでも、俺は止まってやれないよ) そう約束したから。 椿の花を抱いて、顔は穏やかだ。 俺は彼を踏みつけて、さらに先を目指す。 饐えた臭いが俺を殺してくれればいいのに。 脳髄まで毒となって回ってくれればいいのに。 黒い塊は、俺の後ろでうっすら笑んで、椿の花に溶けていった。 赤と黒の対比。 生と死。 私の中の罪と罰。 ← * → |