「響京子は、三ヶ月前私の腕の中で死にました」
「え?なに言って……」

冗談にしては性質が悪すぎる。
だが、メアリーの瞳は真剣だ。どこにも偽りはない。

「ねえ、響刑事。貴方が私のお尻を追い掛け回している最中、京子は苦しんでいたのよ。そして、私がたまたまここを通りかかったときに、絶命した」
「何を、言って……」

彼女の声が金管楽器のように、ぼわんと広がって耳に落ちる。

「私は、京子の最後の願いを聞き届けると約束した。貴方から警察内部の情報を探り出すためにね。お陰でこの三ヶ月やり易かったわ」

ありがとうと、彼女の声が耳に届くがその意味なんか考えたくもない。

「じゃあ、京子は、本物の俺の妹はどこにいるんだ……?」
「安心して。きちんと、貴方たちの両父母のお墓に埋葬してあげたから」

メアリーが京子のクローゼットを開ける。
中から出てきたのは、黒いバックパックだ。彼女が盗みに入るとき、よく下げているものだった。

「京子のことを世界で一番愛してるといった割には、大したことない愛だったみたいね」

メアリーの嘲笑に言い返すことができない。
この三ヶ月、俺は何も気付かず彼女を京子だと思いこんですごしてきたのだ。
とんだお笑い種じゃないか。

「ねえ、響刑事。だから、私は宝石を盗むのよ。愛なんて不確かなもの信じない。私の心を満たすのは、その輝きだけなの」

手の中に在る赤く禍々しい石に目を落とす。
月光が注ぐ部屋の中で、それだけが唯一本当に存在する色のように感じた。

「でも、貴方と過ごした三ヶ月ちょっとだけ京子が羨ましかった」

メアリーが窓を開け放つ。
本来ならば、俺は刑事としてここでやつを捕らえなければならないのだろう。
でも、そんな気力はとうにない。

「さようなら、お兄ちゃん」

暗い夜空に、翼が広がる音がする。
そして、静かに飛び立つ梟のように彼女はこの部屋から消えた。







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