そうだ。今のうちに、ベッドも調べておこう。
メアリーのやつ、京子のあまりのかわいさに嫉妬して爆弾をしかけているかもしれないからな。
ベッドの下、マットレス、敷布団、掛け布団と順番に調べていくが何も仕掛けられてはいなさそうだ。
最後は枕だ。それをポンポンたたく。

「ん?」

確かに今指先に硬いものが触れた。
メアリーのやつ、本当に京子に危害を加えるつもりだったのか。許せん!
俺は慌てて枕カバーを外して、指先に触れたものをつまみ出す。
爆弾かと身構えていたが、予想は外れた。
出てきたのは、もっと最悪なものだ。

「これは……」

それ自体が発光しているかのような、禍々しい赤。
地獄の業火が存在するならこんな色だと想像させるようなこの石には見覚えがある。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

後ろから声が聞こえて、俺はびっくりして振り返った。
そこには、水を持ったまま佇んだ京子がいる。

「お前、これ……」
「まあ、キレイな石。どうしたの?」

お前の枕に隠されていたんだよ。
言おうとしたのに、言葉が出なかった。
京子は微笑んだまま何も言おうとしない。
いつもなら癒される京子の笑顔が、今の俺には脅威でしかなかった。

「お兄ちゃん、顔色が悪いわ。水でも飲んで、」
「お前が……」

信じたくない。
でも、これがここにある理由なんて一つしか考えられない。
まったくの偽者かもしれない。でも、この色は本物にしか見えない。
メアリーがここに隠したのかもしれない。でも、そんなことする理由が見当たらない。


「お前が、メアリーなのか?京子」


俺は、ついにその言葉を口にした。

部屋に入り込む月光が部屋の中を不気味に染め上げる。
そう、まるであの屋敷の庭を思い起こさせる。
ただ一つ違うのは、浮かび上がるのは京子の、俺の愛しい妹の影だ。
俺は時間が進むのをひどくゆっくりに感じながら、京子を見た。
彼女の唇が、まるでスローモーションのように動く。

「あーあ、バレちゃった」

無邪気な子供のようだった。
まるで悪びれず、悪戯が露見した子供のようにケラケラと嗤っている。

「貴方が気付かなければ、まだ兄妹ごっこしてあげたのに。かわいそうな響刑事」
「きょう……こ」

胃の中に冷たい何かが落とされたようだ。
足元が揺らぐ。

「でも、これは気付かなかったでしょう?」
「な、に…?」

京子が意味ありげに笑ったかと思うと、首の下から皮膚をはがしだす。
マスクを取る。そういう表現が正しい。
実際、京子の顔に似せたマスクをはがせば、下から出てきたのはまったく別の顔だった。
見たことはないが、これが怪盗メアリーの真の姿なのだろう。
ということは、京子は怪盗メアリーじゃなかった。俺は安堵を覚えたがすぐまた別の不安が心を襲う。
じゃあ、京子はどこに行った?
その答えは、予期せぬ言葉でメアリーの口から説明される。






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