「総員、怪盗メアリーを捜索せよ!なんとしてでも捕まえるのだ!」

屋敷のほうから股田木警部の声が響いた。
そして同時に、かさりと微かではあるが確かに草を踏み分ける音が聞こえる。

「止まれ!」

俺は月の翳った庭に躍り出て、向こうからやってきた人物へと銃口を向ける。
カチャリと音を出して、うちがねを起こした。
黒い影がびくりと震え、両手を挙げてその場に止まる。
いい判断だ。止まらなければ俺は本当に撃つつもりだった。

「年貢の納め時だ、メアリー」

やつは動かない。

「こんなこともう終わりにしよう。なんのために宝石ばかり盗むかは知らないが、お前がやっていることは犯罪だ」

答えは返ってこない。
雲はまだ月を覆い隠す。
メアリーのシルエットばかりが不気味に浮かび上がっている。

「……響刑事。早く帰られたらいかがです?」

影となったメアリーの手から、何かが滑り落ちた。
紙のようだ。
それが何を意味するかわからず、俺はただ警戒しながら紙へと目を落とした。

「何の真似だ」
「私はここから動きませんから、どうぞそれを拾ってください」

俺は銃口を向けたまま、じりじりと紙切れへと歩み寄った。
よくよく見れば写真のようだ。
雲が風に流されて、月光が庭へと落ちる。

「これは……」

月の光を受けて、写真の内容が判別できた。
同時に衝撃が襲う。
これは、見紛うことなき京子の写真だ。

「貴様!どういうつもりだ!」

雲の晴れた月差し込む庭に、もう影は跡形もなかった。
これはいったいどういうことだ。
俺は地面に落ちた京子の写真を拾い上げ、悶々と意味を考える。
しかし考えても無駄だ。もしかしたら、京子に害及ぼすという警告かもしれない。
俺はいてもたってもいられなくて、職務放棄を承知で家へと急いだ。





「京子、無事か!?」

京子の部屋の扉を乱暴にひき開ける。
バンと、小爆発のような音を出して開けたから、もしかしたら扉が壊れたかもしれないが、そんなことはかまわなかった。

「お兄ちゃん?どうしたの?」

京子はベッドに横たわったまま、眠そうに目をこすっている。
見たところ無事なようだ。でも、怪盗メアリーは卑劣なやつだ。見えないところにしかけを施しているかもしれない。

「え?ちょっと、お兄ちゃん!?」

掛け布団をはいで、京子の安否を確認する。
肩をつかんで、上から下までまじまじと観察したが、どこも外傷はなさそうだ。

「お兄ちゃん?」

京子がおどおどと俺を見上げている。
そりゃそうか。慌てて帰ってきた兄が、急に妹の体を舐めるように見出したら、乱心したと思われても仕方がない。

「すまん。お前が無事でよかった」

俺はぽんぽんと京子の頭を撫でた。

「心配してくれたの?ありがとう」

くすぐったそうに目を細める京子に、胸の奥が暖かくなった。
この子を失ったら、俺はもう生きていけない。

「すごい汗だね。ちょっと待ってて。お水持ってくる」

京子が俺の額に浮かんだ汗を見て、キッチンへと駆けていった。
本当になんて心優しい妹なんだ。俺は京子と兄妹で心の底からよかったと思う。






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