2 「総員、怪盗メアリーを捜索せよ!なんとしてでも捕まえるのだ!」 屋敷のほうから股田木警部の声が響いた。 そして同時に、かさりと微かではあるが確かに草を踏み分ける音が聞こえる。 「止まれ!」 俺は月の翳った庭に躍り出て、向こうからやってきた人物へと銃口を向ける。 カチャリと音を出して、うちがねを起こした。 黒い影がびくりと震え、両手を挙げてその場に止まる。 いい判断だ。止まらなければ俺は本当に撃つつもりだった。 「年貢の納め時だ、メアリー」 やつは動かない。 「こんなこともう終わりにしよう。なんのために宝石ばかり盗むかは知らないが、お前がやっていることは犯罪だ」 答えは返ってこない。 雲はまだ月を覆い隠す。 メアリーのシルエットばかりが不気味に浮かび上がっている。 「……響刑事。早く帰られたらいかがです?」 影となったメアリーの手から、何かが滑り落ちた。 紙のようだ。 それが何を意味するかわからず、俺はただ警戒しながら紙へと目を落とした。 「何の真似だ」 「私はここから動きませんから、どうぞそれを拾ってください」 俺は銃口を向けたまま、じりじりと紙切れへと歩み寄った。 よくよく見れば写真のようだ。 雲が風に流されて、月光が庭へと落ちる。 「これは……」 月の光を受けて、写真の内容が判別できた。 同時に衝撃が襲う。 これは、見紛うことなき京子の写真だ。 「貴様!どういうつもりだ!」 雲の晴れた月差し込む庭に、もう影は跡形もなかった。 これはいったいどういうことだ。 俺は地面に落ちた京子の写真を拾い上げ、悶々と意味を考える。 しかし考えても無駄だ。もしかしたら、京子に害及ぼすという警告かもしれない。 俺はいてもたってもいられなくて、職務放棄を承知で家へと急いだ。 「京子、無事か!?」 京子の部屋の扉を乱暴にひき開ける。 バンと、小爆発のような音を出して開けたから、もしかしたら扉が壊れたかもしれないが、そんなことはかまわなかった。 「お兄ちゃん?どうしたの?」 京子はベッドに横たわったまま、眠そうに目をこすっている。 見たところ無事なようだ。でも、怪盗メアリーは卑劣なやつだ。見えないところにしかけを施しているかもしれない。 「え?ちょっと、お兄ちゃん!?」 掛け布団をはいで、京子の安否を確認する。 肩をつかんで、上から下までまじまじと観察したが、どこも外傷はなさそうだ。 「お兄ちゃん?」 京子がおどおどと俺を見上げている。 そりゃそうか。慌てて帰ってきた兄が、急に妹の体を舐めるように見出したら、乱心したと思われても仕方がない。 「すまん。お前が無事でよかった」 俺はぽんぽんと京子の頭を撫でた。 「心配してくれたの?ありがとう」 くすぐったそうに目を細める京子に、胸の奥が暖かくなった。 この子を失ったら、俺はもう生きていけない。 「すごい汗だね。ちょっと待ってて。お水持ってくる」 京子が俺の額に浮かんだ汗を見て、キッチンへと駆けていった。 本当になんて心優しい妹なんだ。俺は京子と兄妹で心の底からよかったと思う。 |