アレン・アヴドーチャの最期 〈親愛なるロニー・アドニスの続き〉 晴れた日曜だった。 ミサ帰りのガキどもが駆けていく。教会でもらったんだろう菓子を手に、やたら嬉しそうだ。 そういえば、俺も昔神父にもらったことがある。クッキーだったが、あれはうまかった。 何の変哲もないクッキーだった。それでも、あの時はそれが一番うまいような気がした。 そうだ、今度マドンナにクッキーでも焼いてもらおう。 あいつは料理がうまいんだ。きっと、あの時のクッキーよりもうまいもんが食えるはずだ。なあ、そう思うだろう? 今日は、ラッキーズカジノででかい商談がある。 ロニーからの命令だ。俺たちマフィアが今後生き残れるかどうかの大勝負で、俺も気合が入りまくってる。 本当はマドンナもここへ連れてきたかったんだが、そんなでかい商談でコケたら終いだからな。俺はマドンナがいると、どうにもダメになるんだ。 情けねえが、それでいいと思ってる。人間らしい部分は嫌いじゃねえ。 (さて、本当にでかい商談だからな。身なりでも整えてから行くとするか) 俺は、パークシェラトンホテルにある理髪店へ立ち寄った。 えらい上等な革張りの椅子に案内される。理髪店にしちゃりっぱな椅子だとは思うが、すわり心地は悪くない。 顔に蒸しタオルを乗せられる。 マドンナに土産は何を買っていこうか。 チョコレートなんてどうだろう?あいつは甘いものが好きだからな。 靴もいい。最近流行りのパンプスを買っていこう。 それに合わせてドレスも。あいつは綺麗だからな。なんでも似合う。 「アレン・アヴドーチャ!!」 マドンナへの土産の思索は、俺の名前を呼ばれることで中断された。 Fuck!蒸しタオルが顔に乗ってるせいで、何が起きてるかわからねえじゃねえか!! パンッ!!!! 耳に銃声が届いたときには遅かった。 そりゃそうだ。目にも留まらぬ速さなんて言うが、ピストルなんてそんなもんだ。 腹に激痛が走る。 「くそったれ……」 続いて、胸。腕。足。 連中おかまいなしで、俺の体に銃弾を打ち込む。 もう痛みもわからないくらい、いたるところに穴が空く。 ほら、言っただろう?俺は、今まで散々人を殺してきたから、ロクな死に方をしないって。 嗚呼、マドンナの顔が見える。 俺の名前を呼んでやがる。 アレン、アレンって鈴転がしたみてえなかわいい声だ。 クソみてえな人生だったが、お前と会えたことは俺の一番の幸福だ。 カミサマなんざ信じちゃいねえが、お前とめぐり合わせてくれたことをすげえ感謝してんだ。ホントだぜ?なんなら、カミサマにケツ差し出したっていい。マドンナと会わせてくれてありがとう、お礼に好きなだけファックしてくださいってな。 おっと、お前はこういう下品な物言いが嫌いだったな。 なあ、マドンナ最後に見れたのがお前の顔でよかった。ホント、お前は俺のマリア様だ。 だが、もう一つわがまま言えんならお前のクッキー食べてみたかった。 ガキん頃よりうめえやつ。 大丈夫、お前の作ったもんは何でもうめえから。 お前に会えてよかった。 そうだろう、マドンナ? ← * → |