出三



とん、と胸元を押され、ぐうらりと景色が反転していくのを見ていた。昔よくやった背中から布団に落ちる遊びによく似ていて、一つ違うのは、後ろに布団が無くて、床も無くて、ただしばらくの浮遊感と近付く地面があった。

(し、ぬ…)

「出馬、さ…」

どしゃ

「……久也、なにやっとるん」
「…知りませんよ」

結果的に落ちたのは出馬さんの部屋の床。横に落ちたから脇腹と頬に痛みが走った。まるでビンタされたみたいだな、と思いながらベッドから出て僕を抱き上げようとする出馬さんと目を合わした。眼鏡が無い時は鬼畜そうじゃ無い。

「…変な夢」
「そら難儀やったな」
「落とされる夢」
「ベッドからか?」

違います、と出馬さんの頬を引っ張れば間の抜けた声が痛みを訴えてきた。そんなじゃれあいの間にもさっさと僕を抱き上げてベッドに座らせる手際の良さには呆れの息しか出ない。やけに慣れているのがまた嫌だ。

「で、どないしたん」
「…落とされました」
「何から」
「屋上から、こう、とんって」

再現する様に空中を押す。まだ胸元に手の感触がある気がする。出馬さんにあまり感情の変化は見られないが興味はあるらしく黙って後ろから抱きしめられた。

「急にフェンスが消えて、真っ逆さまに」
「押したん、誰やったん」
「さあ」

素直に答えれば出馬さんはへぇと笑う様に言った。何だか居心地が悪い気がしてきた。自分自身の夢なのに、何故か出馬さんが分かってるみたいに思えるのだ。身長差から顔を上に向ければぱちりと出馬さんと目が合う。

「久也、良いこと教えたる」

にやり、と意地悪い顔で笑う出馬さんにぴくりと僕の肩が震えた。途端に、あっ、と息を詰めてしまう。
あ、思い出した、この顔。

「俺はな、決めてる事あんねん」
「なん、ですか…」

バクバクと意味も無く音を大きく響かせる心臓に、冷や汗がスッと流れる背中。喉がカラカラに渇いて言葉が不自然につっかえる。

「久也が死ぬ時、絶対最後に久也が見るんわ俺って」

額に落とされたキスに目眩がする。
確かに、この顔はあの時、夢で
じゃああれは、僕の深層心理の望んだ未来か






なんて幸せな未来






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殺されたがりと殺したがり
何ともまあ幸せそうで、って感じの二人がたまに好き
出馬さんの一人称ってなんだ…
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