おがふる



古市は土埃が舞い上がる校舎裏側の窓から顔を出し、ぱたっと手を扇ぐ様に動かして男鹿を、いや、男鹿の周りに倒れた生きているのか死んでいるのかもわからないぐらいに血や泥で汚れた男達を哀れむ目で見ていた。そんな男達を見る古市も服の至る所に無数の大小様々な靴跡をつけ、頬を浅く切って血を流していた。

「かわいそ…」
「俺にしてみればお前の方が可愛そうだ」

ぽそりと呟かれた古市の言葉に素早く反応したのは周りの男達や古市とは対照的に無傷で服に埃がついた程度のわりかし綺麗な男鹿だった。そんな男鹿の言葉に古市は笑みを浮かべ、ふーんと言った。

「なんだよ」
「や、盲目なぐらい愛されてるなと」
「もう…、も?」
「何でも無いよ」

わざわざ教え直すのも面倒臭いのか古市は更に笑みを深くし、愛されてる愛されてると笑いを含ませて楽しそうに呟いた。男鹿はそんな古市を一瞥し、とりあえず近くにいた男に蹴りを一つ入れた。その蹴りは男にとっては運悪く鳩尾に入り、男は呻きを血と共に口から吐き出した。

「あ、生きてる」
「殺した方が良いか?」
「いらない、男鹿が警察に捕まると困る」

男鹿はそうか、とだけ呟き、古市が顔を覗かせる窓の浅に手を掛けて壁を蹴り、そのまま古市の隣まで勢いよく上った。たんっと廊下に足音を響かせ、男鹿は窓枠から足を下ろした。

「まあ大人しく見てた俺が言うのもなんだけど、やり過ぎじゃないか?」
「お前に手を出した、本当なら殺しても良い」
「わー怖い、けど格好良いなー」

堂々と物騒な言葉を吐き出す男鹿に対し、古市はケラケラと楽しそうに笑い、男鹿の肩を一つ叩いた。そんな古市の様子に男鹿は悩ましげに眉をしかめるばかりだ。

「蹴らりちった」
「わかる」
「だーよーなー、明日デート止めよっかな」

両腕を広げて服の至る所にある靴跡を男鹿に見せ、参ったなと言わんばかりにため息をついて見せる古市の顔からは笑みが消えない。

「嬉しいのか?」
「え、デートは残念に…」
「そっちじゃねーよ」

男鹿は笑ってる、と小さく付け足して自分の口を指差した。

「嬉しいよ、愛されてるから」

笑みをさっきより一層深くし、もはや妖艶さを感じる程の笑顔で男鹿に答える。ヒュッと男鹿が息を飲む音が誰もいない二人だけの廊下に響いて消えた。

「守って、愛してくれるだろ…?」

男鹿は我が儘な恋人に密かにため息をついた。






愛して守って受け止めて






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古市我が儘
守って、愛されて、で浮気まで許される。
我が儘
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テーマ「人外ファンタジー」
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