夏神+α
※梅子様へ



「城山っ!!」

バタバタと騒がしく教室に入って来た神崎を見た城山は溜め息を付きそうになった。原因は神崎の隣でいつものようにニコッと笑っていない夏目だった。

「なつ、な、夏目がっ!!」
「神崎さん、落ち着いて下さい」
「そうだよ落ち着いて神崎くん」

原因の夏目にまで宥められた神崎は暫くパクパクと口を動かしたが城山に背中を撫でられて漸く落ち着いた。ふぅと肩から力を抜き、徐に夏目の足に蹴りを放った。

「お前には言われたくない」
「良い蹴りだねっ…!」
「夏目、お前今日は何したんだ」
「えー」

ムスリと口を結び、腕を組んで喋らないと無言で言い放つ神崎に城山は夏目に聞く。だが夏目は自分が悪いと全く思っていない様で不満げな声を出すだけだ。流石の城山もお手上げだ。

「あ、おはようございます」
「出入口で何たむろしてんだ」
「む、東条と山村か」

そんな冷戦状態に、登校した東条とカズは教室に入ろうにも入れなかった。
カズとしては今日一緒に登校しなかった男鹿と古市に挨拶したい所なのだが、どうやら神崎達に巻き込まれるなと感づき、気づかれないよう困った様に笑った。隣にいた東条にはばっちり気づかれていたが。

「また痴話喧嘩か」
「痴話喧嘩じゃねぇ」
「またって何さ」
「コラ神崎さん、夏目も」
「「……」」

東条に反論しようと口を開いた神崎と夏目は城山の叱咤により口を閉じる。
その様子にカズは曖昧に笑いながら城山の印象にお母さんみたいと付け加えていた。
そんなカズには気付く筈が無く城山は溜め息を付いた。

「何したんだ夏目」
「何で俺が何かした前提なのさ城ちゃん」
「大体そうだからだろう、神崎さんも何言ったんです」
「何も言ってねぇ」

堂々巡りだといち早く気が付いた東条とカズは登校中に見た二人の姿を思い返す。暫く思い返すが早々に東条は阿呆らしいと放棄した。

「どっちか謝れば良いだろ」
「「嫌だ」」
「…………」
「すまん東条…」

早く済ませたい東条は適当に言ってみるが原因の二人にスッパリ切り捨てられる。そろそろ溜め息を付きそうになった東条は隣のカズに袖を引っ張られたことによりグッと喉の奥に引っ込められた。

「多分、何ですがー…」
「なんだ?」
「DVDが何とかって夏目、先輩が言って…」
「DVD?」

城山が尋ね返した言葉にピクリと解りやすい程反応した神崎と夏目に東条は飽きれの色を顔に滲ませながら口を開く。

「まさか夏目が神崎のDVD割ってとかじゃないだろうな」
「…俺は謝ったよ?」
「阿呆らしっ!カズ行くぞ」
「東条さん、一限は…」
「ふける!」

図星だったらしく夏目は投げやりな笑顔を貼付けながら言うが、東条にしてみれば阿呆らしいにも程があり、カズの手を掴んで屋上へと向かっていた。
城山は申し訳なさそうに東条とカズの背中を見送り、神崎と夏目に目を向ける。

「神崎さん、何言ったんです…」
「割っちゃったゴメン、また今度買い直すからって、限定版なんだよコレ!」
「だからって問答無用で鳩尾蹴ること無いじゃん!」
「おまっ、それぐらい受け入れろ!いつもは喜ぶくせに!」
「愛が無いものは嬉しくない!」
「キモい!!」

ギャンギャンと目の前で繰り出される言い合いに城山は耳を閉じたくなったが、その前に夏目の頭に鞄が叩き付けられた。

「朝からうるせぇ!」
「お前も十分うるさいからなー、男鹿」
「男鹿、古市…」
「ざまあみろ」
「いっつー…!だけどこれはこれで…」
「夏目、お前ちょっと黙っていろ」

丁度投げきった体制で立っていた男鹿に古市は宥める様な口調で男鹿の後頭部を平手で叩く。城山は男鹿の鞄を拾い上げ、すまないと一言詫びてから状況をざっくりと説明した。

「阿呆らし…」
「こら男鹿!」
「いや、構わない」

説明を聞いた男鹿は東条同様阿呆らしいと切り捨て、自分の席へと歩いていく。その背中に古市は男鹿に叱咤を投げ掛けるが城山にやんわりと遮られた。古市はその裏の、自分もそう思うと言う思いに気付きお母さんも大変だなと心中で同情した。

「さて、これをどう収拾付けるか…」
「嗚呼、それは簡単ですよ」
「む?」
「どっちも謝らせれば良いんですよ」

古市はサラリと言い放ったが城山は心中でうーんと唸った。この喧嘩になると素直にならない二人には難題なのだ。ぶっちゃけ不可能に近い。まだ夏目は良いとして問題は神崎なのだ。最近はマシだが喧嘩しててもしてなくとも素直じゃないのが神崎だ。

「無理だろう」
「まあ、俺がやります」
「む?下手したら蹴られるぞ?」
「そこら辺は男鹿が黙ってないんで大丈夫です」
「そうか…」

それは色んな意味で大丈夫じゃないと思うがそれ以外考えが無い城山は大人しく古市に事を任せた。

「夏目さん」
「古市くん…」
「さっき状況を聞きました、まあ、ざっくりとなんですが。でもですね、夏目さん、謝り方ってあると思いませんか」
「謝り方?」

まるで子供に言い聞かせるみたいな口調で語る古市に神崎はそうだと仕切に頷く。

「多分ですけど夏目さん、冗談言うみたいに軽く謝ったんじゃありませんか」
「……」
「そりゃあ限定版とは知らなかったかも知れませんが、人の物を壊しといてそれじゃあ駄目ですよ、誠意が全く無いです、相手も殴りたくなります」

後半から熱が入ったと言うか、実体験の様な物が古市の後ろに見える様な説得力が溢れ出した。一応聞こえているのか男鹿が気まずそうに視線をこちらから外して窓ばかり見ていた。

「神崎さんも」
「は?」
「急に暴力されてみてください、相手もびっくりするし嫌な気分になります。俺なんて俺が悪く無くても急に殴られるんですよ?男鹿に、あの男鹿に」
「は、い…」

途中から明らかに実体験が入り始めた。雄弁に語るのは古市と男鹿の普段。確かに殴られてる。加減はあるがそれでもかなり痛いだろう。
神崎は古市に圧倒されて返事がはいになっている。

「それに!喧嘩をし始めたら二人とも悪いんです!売っても買っても自然となっても!解ったらお母さ、城山さんの言う事を聞く!」
「古市、今明らかにお母さんって言いかけたよな」
「空耳です」
「ふる「空耳です」

押し切られた。
だが、古市の説得力ある説教によって二人とも大分落ち着いた様だ。と、言うより古市が怖かったと言った方がいい。男鹿も古市の一挙一動に一々肩を震わせていた。

「…ごめんなさいは」
「ゴメン…」
「………」
「神崎さん」
「ご、めん……」

ふぅ、と息を付けば、明らかに最初よりしゅんと落ち込んだ二人に城山は仕方ないと思いながら微笑んだ。

「明日は二人の好きなオカズを弁当に容れてきます」
「「!」」
「その代わり、同じDVDの限定版がありますから神崎さんにあげます。夏目は俺にDVDを買う事だ」
「解った!城ちゃ、お母さん!!」
「合ってるから言い直さなくて良い」
「お母さん…」
「神崎さんも真似しない」






平和を祈る暇も無いくらい平和です、お母さん






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…ただの神崎主従な気がす……
てか後半古市がオカン
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