おがふる
カリカリさらさら
何だか別世界にいる気分になってきた。かち、カチ、とゆっくり鳴る時計と全く動かない鉛筆。回答欄は埋め尽くされているのに、何故か、嗚呼俺落ちるな、と直感的に思った。
回答欄は全部埋め尽くした、解らなかった問題は無い、適当に回答欄を埋めた訳じゃない、成績も良い方だ。だが本当に、これは落ちると思った。何故なんて問題はもはや自分の中で愚問と化していた。
クルリと鉛筆を回す。
(あーあ、)
心中でため息を零す。本当に零さない様に歯をギリッと噛み締めると、口の中でゴロッと筋肉の音がした。
(場違い、だ)
自分自身を嘲る様に、自然と口が笑みを象った。
「おが」
「…ごめん」
「大丈夫だって」
落ちた。
受験票をくしゃりと潰し、地面に投げた。その中の番号が何番だったかなんてもう覚えちゃいない。マフラーでぐいっと口を覆い、笑みを隠した。両親にはもう言っておいた。落ちるって。
二人ともも解ってたみたいで、「あらー、そっかー」とか「ま、解ってたがな」とか、仄々と言っていた。間違いなく本心から。
「知ってたから良いよ」
「……」
「じゃ、男鹿」
また三年間、俺を守れよ
解っていたさ、何もかもな
___
そりゃ男鹿といたら落ちるわな
受験生にとっちゃ縁起の悪い話だ
僕にも縁起の悪い話だ