おがふる



ジャバッ、とさっきまで飲んでいたミルクティーを床に落とす。コンクリートの床はミルクティーを吸い込んでいつもより濃い色に体を染めても尚吸い込み続ける。

「もったいねぇ」

不意に陰った地面にふと顔を上げれば逆光で顔は見えないがしかめっ面をした男鹿が立っていた。

「マズイから」
「なら買うな」

紙パックに入ったミルクティーはそれなりに量があって途中から気持ち悪くなり、それを自覚した途端マズイと素直に感じた。今も喉の奥から込み上げて吐き出してしまいそうだ。

「男鹿、気持ち悪い」
「古市君、俺は気持ち悪く無いぞ」
「いや、そっちじゃないから」

話している間にも吐きそうだ。口を手で押さえて顔を下に向ける。上を向いていても気持ち悪いが下を向いていても気持ち悪い。

「トイレ行けば良いだろ」
「…あるけない」
「馬鹿め」

ぐいっと腕を掴んで屋上の扉を開け放つ男鹿に抵抗せずに引かれていく。何だか変な気分だ、男鹿に手を引かれるって。

「頭痛い…」
「風邪か?」
「わか、らん…」

ピタリと足を止めて俺の訴えを聞いてくれる男鹿に有り難さを感じながらその場に蹲る。

「古市ー、死ぬなー」
「むり、しぬ…」
「いや、死なねえから」

お前が言ったんだろ。なんて言える程の気力が無かった。本格的に気持ち悪い。

「古市、つわりか」
「…あー、そうかもね」
「重症だな」

お前の冗談に付き合ってしまう程にはね。今流行りのボケ殺しだよ馬鹿男鹿。心中で軽口を叩きながら男鹿を見ようとすれば視界が黒で埋め尽くされる。あれ、今は夜かな。違うよね、なんで男鹿の短ランらしき物を被されているのだろう。

「おが?」
「我慢な」
「へ?」

あわ、浮遊感。
恐らくだが今俺は男鹿と書いて馬鹿と読む男に抱き抱えられています。わー、なにそれ嬉しくない。でも抵抗する気も無いから大人しくいよう。この変な所で優しい馬鹿が保健室と言う物に連れていってくれる事に期待しながら。






変な優しい奴。






___
男鹿は変に優しい奴では無く、変な優しい奴。
古市君はこの後何故か家まで抱き抱えられています。
だから変な優しい奴。
あと、ミルクティー飲んで気持ち悪くなるのは僕です。
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