榊アレ



思わず口から出てしまいそうになった言葉を苺味の飴と共にかみ砕いて無理矢理喉の奥に落とした。飴のカケラで切ったのか血の味がして吐き出したくなった。色んな物ごと。

(…あ、)

ふと目を前に向ければ背中が見え、その横に少しはみ出した漫画。一瞬見えた可愛らしい絵柄にげんなりする。彼の言葉を借りるなら「萎え」だ。

(めんど、くさい…デスね)

教師の拙い英語に読みにくい文字。そこのスペルが違う。と言いたいが、堪えて血を味わう。いつもながらマズイ。
教師が黒板からこちらに目を向ける。相変わらず頭髪の薄さと分厚い眼鏡が目立つ教師だ。

(…おわ、り)

手に持っていたシャープペンシルを一回だけくるりと回して何も書いていないノートと見もしていない教科書を閉じた。前の席の彼も閉じる。目を向ければ、いつの間にか漫画は無くなっていた。何だか彼を造る部品が一つ無くなった様で物足りなさを感じた。
チャイムが鳴り、鞄から出したコンビニ袋を持って席を立つ。

(エート、今日は三木君と…)

屋上。と小さく声に出してしまった。だがそれはざわめくクラスに落ちて、誰にも気付かれずに消えた。ざり、と咥内で上顎を撫でる。血の味がする。

「榊くん、」
「…三木が待ってるぞ」
「あ、ハイ」

行ってきます、と言えばこくりと一つ頷かれた。
そう言えば、何故僕は榊くんに断りを入れようとしたのか。いつも一緒に食べているから、では足りない気がする。別にそれで事足りるはずなのに。
意味が分からず、つい奥歯を噛み締めた。なんだか今日はモヤモヤする。がらりとドアを開けながらそう思った。

「アレックス」
「は、…?」
「…苛々してる」

ぱこっ、とノートで叩かれた頭を押さえ、榊くんの言葉をゆっくりかみ砕く。ああ、なるほどな。とすとんと落ちる蟠りにホッとしながら、自分自身にも分からなかった事を分かって貰えた事に嬉しく感じた。
まあ、そんな事より、榊くんのあの行動が本当に天然だって事の方がかなり重要だったりする。






日常生活パターンA






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なんだ、あれだ
日常がね、書きたかったんだよ

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