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3章・3



「……私は止めましたからね」

 呆れたように優羽眞は言った。


「この公園は、街の西南西の端にあります。誘拐された方々は、ここから北東に真っ直ぐ、走って30分ほどの所にある集会所の、地下室に。この街唯一の赤煉瓦作りの建物ですから、すぐに判るかと」

 戦う事を決めたアガット・イアの面々は頷く。優羽眞は酷く苦々しげな様子で、シドは心配そうにそれを見ていた。溜め息を隠しもせずにこぼしながら優羽眞が続ける。

「多少の器物損壊は気になさらずどうぞ。とりあえずまずは、ここを取り囲んでいる人を倒すところからです。……徒紫乃君、何人か判りますか?」

 呼ばれた徒紫乃が頷いて目を閉じる。「……10人……いえ、12・3人かと」と、少し間を置いて返事が来た。説明を求める顔をして首を傾げたヒューロに、「俺は耳がいいので」と言って徒紫乃は優羽眞を見た。その優羽眞は、神妙な顔でうなずきを返す。

「なら、集会所にいる人数も10前後といった所でしょう。追っ手の生き残りががそちらに向かっていれば、さらに増えるかもしれませんが」
「……先生、悪いお知らせです」
「何です」
「あちらで、入り口を爆破させようとしてます」
「それはいいお知らせです」

 優羽眞が、ここにきてはじめて、楽しそうに見える笑顔を浮かべた。

「どうやってここから出るか考えていた所です。爆破に乗じて外に出ましょう」

 割と滅茶苦茶な事をあっさり言った優羽眞に、アガット・イアの一行が反論する前に、徒紫乃が諦めたように盛大な溜め息を吐き出した。

「外、点火カウント始まりました。時限装置みたいですね。あと30秒」
「えっ」
「隠れて下さい!入り口から離れて!!」
「20秒」
「間に合いません!」
「間に合わせなさい!」
「10、9」
「徒紫乃君なんでそんな冷静なんです」
「先生の無茶ぶりには慣れた、4、3」
「無茶ぶりってレベルでもないですよね」
「2、1」
「さあ皆さん覚悟を決めなさい!」
「0」

 一拍の後に轟音が鳴り響く。
 半分ほど屋根がえぐられたように吹き飛ばされる。幸いにして落ちてくる瓦礫は少なかった。もうもうと上がる土煙。その向こう、僅かに白み始めた空が見えた。
 
 
 
 
 

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