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3章・2



 避難所を作るという事は、差別を前提にするという事だ。『ここに来れば差別されません』という場所があるという事は、『他の場所では差別されるかもしれません』という現実を認めるに他ならない、という事だ。

 優羽眞はそれを判って、この街を作った。己の足で、大陸中の先祖がえりを探し、見つけ出した先祖がえりが、またこの街の存在を他の先祖がえりに伝える。もっと簡単なのが、先祖がえりがいるという噂の街の長にユートピアの存在を伝える方法だ。それが腐ったヒトなら尚いい。『貴方の街の先祖がえりはどうでしょうね』と尋ねる。自分の腐ったところを外に知られたくないから、先祖がえりがユートピアの存在を知らない事を確認する。もしくは街から先祖がえりを追い出したくて、わざと情報を漏らす。そうしてユートピアを知った先祖がえりが、逃げる手伝いをすればいいのだ。
 先祖がえりは力の強いもの、魔力の強いものが、比較的多い。生きる術として技術のあるものがいたのも幸いだった。涸れた大地が水を吸うように街は育ち、一年で外に知られるまでになった。

 差別はなくならない。
 決してなくならない。
 優羽眞はそれを判っているからこそ、この『ユートピア』を作った。先祖がえりの地位を固める、基盤として。そしてそれが確立されるまでの、虐げられたものたちの受け皿として。先祖がえりだけではなく、すべての、あまりに孤独であったものたちのための。あまりに、生きていくのが困難だったものたちのための。誰からも傷つけられず、誰も傷つける必要のない、理想郷。
 言い換えれば互助組織だ。たとえばアガット・イアをはじめ、TOTの駅がある街。そういう進んだ、差別の少ない、あるいはないと謳っている街が、ある程度はその役割を担ってきた。しかし犯罪歴があるものは、往々にして、はじかれる。罪は罪だ。それは仕方のない事だ。しかし、と優羽眞は思う。最低限の受け皿がない限り、彼らが罪を犯さず生きていく事は、今の時点では不可能だ。
 だからこその、ユートピアなのだ。
 それを、


「貴方がたは判っていない」

 優羽眞は殺気立った自警団の面々に囲まれて、溜め息をついた。

「猿山の猿のほうがまだ考えて行動していますよ。あまり下品な言葉は使いたくありませんが――答えなさい、この脳筋共が」


「行方不明者の居場所を、答えなさい」






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