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2章・2



 徒紫乃とアルニコを見送り、優羽眞は深く息を吐いて椅子にもたれた。

「……優羽眞、さん」
「シドさん」

 隣の部屋にいたシドが、気遣わしげに声をかけた。先ほどまでとは一転、疲れたような様子で優羽眞は肩を竦める。

「……頼んでいた件は?」

 シドは神妙に首を振った。横に。優羽眞が深々と溜め息をつく。

「まだ見つかってないんですか……」
「……すみません」
「いえ、いえ、貴方が謝る事じゃあありません。こちらこそ申し訳ありませんでしたね、貴方は頑張って下さってるのに。でも……」

 優羽眞は言って、窓の外を見た。先祖がえりの子どもたちが駆けていくのが見えた。獣の尾が生えたエルフの子、鰓のある人間、優羽眞がサーカスから連れて来た子どもたち。少し遅れてついていくブルーメの姿を見送って、もう一度シドを見た。

「あの子達の居場所を、奪うような事は……」
「判って、います。私もそれは、望みません」
「ええ、ありがとうございます。だから貴方に頼んだのですよ」

 悲壮なほど厳しい表情で、優羽眞が呟く。

「いなくなった方々を見つけなければなりません」

 数名。行方がわからなくなっている住民がいる。ある日ふっつりと糸が途切れるように消息が途絶えた。ユートピアから消えたのだ。今はまだ、ごまかせる範囲内だが、これ以上人数が増えれば、長期に及べば、不審に思う住民も出てくるであろう。よりにもよってこの時期に、と優羽眞は思う。

「……絶対に視察隊の方々に知られてはなりません。ユートピアは街としてやっていける。それを知らしめるために、受け入れたのですから」

 相変わらず気遣わしげなシドの視線を受けて、大丈夫ですよと微笑む。力のないそれは、端的に彼の不安を示していた。
 行方不明になったものたちは全て、優羽眞に対して不安を吐露していたものたちだ。この街は幸せだが、故郷に戻りたくもあるのだ、と。迷っていたものたちだ。単に故郷に帰っただけなら何も問題はないが、そうではない可能性の方が圧倒的に高いのだ。

「自警団の方々がなにがしか関わってる可能性が高いでしょう。あの方たちは、特に、蛇蝎よりもヒトが嫌いですし、言ってはなんですが短絡的ですから。引き続き監視をお願いします、くれぐれもお気をつけて」
「判りました。……貴方、は」
「私もやる事がありますので」

 優羽眞はゆっくりとかぶりをふった。不安を優羽眞にこぼしたものはまだいる。この街はまだまだ不安定だから、それは、致し方のない事だ。様子を見に行った方がいいだろう、と優羽眞は俯いた。

「この街は理想郷でなければならないんです」
「…………」
「……何も、おこらなければいいのですが」




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