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 ――夜が、明ける。
 白亜の街とも称された街並みを、まぶしく染め上げる。その清涼な空気に似つかわしくない、ぼろぼろに煤けた集団が、それでも登る朝日を眺めていた。

「……ご協力感謝します。被害者は全員、無事でした」

 建物から出てきた優羽眞が、ぼろぼろに煤けたアガット・イア司書隊の面々にそう告げた。
 もとより、自警団に被害者を傷つける意志はなかった。ユートピアから出ることを阻止したかった、ただそれだけであったから、監禁のために多少弱りこそすれ、怪我をおったものはいなかった。その自警団は、いまは捕縛されまとめて気を失っている。優羽眞が溜め息をついた。

「……全部私が仕組んだ事でした、という事にして、私の首を切っておしまい、には、して頂けないんでしょう」
「無論だ」

 いっそ不機嫌に答えたのはザラメだった。他の面々も似たような顔をして同意する。優羽眞は一連の事件の中で初めて、困り果てたような顔をした。

「まあ責任者という名目で、私と、実行犯の皆さんと、潜伏している指名手配犯を、国際裁判所に団体様でご案内、というのが法的には正しい処置でしょう」
「そうすると俺たちもタダでは済まなくなりますよ。自衛以上の戦闘をしましたから」
「一緒に豚箱の臭い飯食べますか」
「先祖がえりが一般の刑務所に入って無事で済むものか、とつい先日仰ったのどこのどなたでしたかね」

 その先日優羽眞が武器にした、先住民の権利を保証した国際法は、ここでも有効になってくる。要は民族自治区、ないしそれにあたうか判定中の土地で自衛以外の戦闘をすれば、ほぼ例外無く侵略行為と見なされる、というものだ。かの有名なノグーシュの悲劇のような、民族全体を危機に陥れるような惨劇を繰り返さないために、と定められたかなり強制力の強い法だ。どれほど優羽眞の弁が詭弁でも、どれほど先祖がえりが差別されていようと、適用されてしまえば分が悪いのはアガット・イアだ。ただの(裏に他の街の思惑もあったとは言え)一つの街の、ただの視察団でしかない。
 そして、司書隊自らが巻き込まれたとは言え、街の中で起こった事件の解決を、他国に委ねるという事は、アガット・イアはユートピアの自治権の否定すると宣言するに等しい。それを、決めてしまっていいのか。

『決めろよ。テメェらが見てきた事だろ。俺様はテメェらを信用して行かせたんだぜェ?』

 この場にいない筈の人物の声がした。

「……館長っ!?」
「どうして!?」
『いやぁさすがの俺様もこの超遠距離まで使い魔飛ばすとなると色々準備が必要でなー別にテメェらの様子見てたとかそういうアレじゃねェから単に時間かかっただけだから』

 もはや懐かしい館長の召喚獣、通称わんわんがいつのまにやらアガット・イア司書隊の頭上に浮かんでいた。館長の脳天気ですらある声が、微かなノイズは伴っているものの、聞こえてくる。

『まぁ、話は勝手に途中から聞いててやった――こっち側の方針はさっき言ったとおりテメェら任せ。テメェらが、この街がこのままやっていけるかいけないか……というと語弊があるな、ユートピアという街が、将来的にで構わねェ、自立できると思うか、思わないか。どっちだ』

 よォく考えろよ、と館長が続ける。

『アガット・イア司書隊、こんなのは司書の仕事じゃねェと思うかもしれん。だがしかしな、本っつーのは、ヒトあってこそのものだ。つまり司書っつーのもヒトあってこその職業だ。どちらを選んだとしても、俺様達は最善を尽くさなきゃいけねェ。だからその最善を選べ。この街が独立しようと解体されようと、アガット・イアは最大限の援助をする。――おい、ペンドラゴンの小倅』
「異論ございません。……こうなっては私達としても、貴方がたの判断に任さざるを得ませんよ」

 小倅と呼ばれた優羽眞がそっけなく答えた。それじゃあ、とわんわんが館長のようににんまりと笑った。

『テメェら、どう思う?』


自立できる
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