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僕と彼女と雪だるま


※5話と6話の間のお話。

……寒い。

いつもより冷える朝の空気に、目が覚めてベッドから抜け出した僕は軽く身震いした。
昴琉も起きてくるだろうし温かいコーヒーでも淹れよう。
そう思ってキッチンに行くと既に彼女は起きていてリビングにいた。
僕に気が付かない昴琉は窓にへばりついて外を見ている。


「何してるの?」

「あ、おはよ、雲雀くん!見て見て」


声をかけると彼女はにっこり笑って手招きした。
誘われるままに彼女の横へ行き外を見ると、朝陽を反射した白銀に一瞬目が眩む。
夜半から降り出した雪で窓の外の景色は白一色に染め上げられていた。


「…雪。道理で冷えると思った」

「ね。こんなに積もると思わなかったわ。今日会社休みで助かった〜」


心底ホッとしたように昴琉は言った。
確かにこの僕の同居人はいつもヒールのある靴を愛用しているから、これだけ積もった雪の中を歩いて駅まで行くのは苦労するだろう。
ふと足を滑らせては転ぶのを耐えて雪道を歩く彼女を想像して、何だかとても可笑しくなって僕は小さく笑ってしまった。
それを不思議そうに貴女は見たけど、また視線を窓の外に向けて話し出した。


「雲雀くんは雪で遊んだりする?」

「うん。雪合戦とかね」

「へぇ、意外!団体の遊びとかしなさそうなのに」

「まぁ、群れる標的に一方的に雪玉を投げつけるんだけどね」

「……それ合戦なの?」

「合戦だよ」

「そ、そう…」


何故か苦笑いを浮かべた彼女は、何かを思い立ったらしく徐に窓を開けた。
ヒヤッとした外気が室内に流れ込む。
ベランダに出た昴琉は吹き込んで積もった雪を集め始めた。
きゅっきゅっと握って彼女は小さな雪玉を作る。


「ね、雲雀くんもひとつ作って?」

「いいけど…これっぽっちの雪じゃ雪合戦は出来ないよ?」

「いいから、いいから!」


一体何を…。
仕方なく僕もベランダに出て雪を掻き集めて彼女よりも少し大きい雪玉を作った。
「ここに置いて」と彼女の指差した場所に作った雪玉を置くと、昴琉はその上に自分の作った雪玉を置いた。


「…雪だるま」

「うん。思った通り丁度いい大きさだわ」


そう言って貴女は僕の手を取り、大きさを比べるように掌を重ね「ほらね?」と綺麗に微笑んだ。
屈託のないその笑顔に僕の心臓は小さく跳ねる。
雪に触れていたせいでお互いの掌は冷たいはずなのに、妙に熱く感じてパッと手を引っ込める。
何とも言えない気持ちになって、僕はそれを目の前の小さな雪だるまにぶつける。


「…僕が下だなんて気に入らない」

「ぇ?あぁ!」


僕は雪だるまを持ち上げて上下逆様に置き直した。
頭でっかちのそれを見て彼女は「君は本当に負けず嫌いだね」と笑う。
柔らかな笑顔に思わず釣られて僕の頬も緩んでしまった。
そんな僕の頭を貴女は優しくポンポンと叩いて「朝ご飯にしよ?」と立ち上がった。


僕と彼女が作った小さく不恰好な雪だるまは翌朝には溶けて消えてしまったけれど、僕の心に温かな何かを残していった。



2008.12.14
それは淡く芽生え始めた恋心…?


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