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僕と彼女と霹靂


遠くの空で稲光が走り、ゴロゴロと雷鳴が轟いている。

本を読むのに飽きて、僕はそれをマンションの窓から眺めていた。
愛しい僕の彼女は夕飯の支度中だ。
一人暮らしが長いから頼めば一通りのメニューは作れるし、何といっても彼女の味付けは僕の口に合う。
一番美味しいのは彼女自身なんだけど、以前それを言ったら顔を真っ赤にして「子供が生意気言うなっ」と怒られた。
思ったことを素直に口にしただけなんだけど。
大人のクセにそういう話題になると、昴琉は顔を真っ赤にして照れる。
そつなく何でもこなしてしまう大人の彼女を、子供の僕が遣り込められる唯一の手段がソレっていうのも情けないけど。
慌てたり困ったりする彼女を見たくてついつい意地悪したくなる。


料理を作る彼女の後姿に視線を向けると、時々肩がビクッと動いている。

……ほら、まただ。

昴琉は握っていた包丁を置くとクルッと振り返り、部屋中のカーテンを閉め始めた。
最後に僕のところにやってきて「閉めていい?」と訊く。
心なしか涙目に見えるのは気のせいか。
妙な気迫に負けて頷けば、彼女はシャッと勢いよくカーテンを引っ張った。
そして足早に窓際から離れ、キッチンに戻り料理を再開する。
もう少し見ていたかったけど、僕は観察対象を雷から昴琉に移すことで退屈を凌ぐ。
彼女は暫く順調に料理をしていたが、また肩をビクッと震わせた。
それは雷が近付いて来るに連れ回数が増えているような…。


その時僕の推測を決定付ける一際大きな雷鳴が轟いた。


彼女は小さな悲鳴を上げると両手で耳を塞ぎ、その場に蹲ってしまった。
あぁ、やっぱり。
キッチンに移動して蹲って震える彼女の前にしゃがむ。
ニッと笑って訊く。


「雷、嫌いなんだ」

「…!そ、そんなコトあるわけ…キャッ」


窓ガラスを震わせる程の雷鳴が、雷嫌いを否定しようとした彼女をも震わせる。
別に隠すことじゃないのに。変なの。
蹲っている昴琉の身体を起こすと大きな瞳からぽろぽろ涙が零れていた。

あぁ、可愛いな。

変に保護欲が掻き立てられる。
そっと抱き締めて髪に口付けると、彼女は僕の服をきゅっと掴んだ。


「やっぱり怖いんじゃない」

「うぅ…」

「隠さなくてもいいのに」

「だって、雲雀くん絶対からかうもの」

「…うん、まぁそうかもね」


眉根を寄せて形の良い唇を尖らせて、貴女は僕を責めるように見る。
そんな顔しないでよ。
唯でさえ今の貴女は可愛いんだから。
キスで咬み殺してしまおうかと顔を近付けた瞬間、大きな雷鳴がまたひとつ。


「イヤァーッ!!」


ゴンッ

反射的に顔を伏せてしまった彼女の頭突きが僕の顎にヒットした。

……痛い。

「ご、ごめん!」と謝りながらも雷でそれどころでない彼女は、すぐに僕の胸に顔を埋めてしまった。
しかも凄い力でしがみついている。
これは…もしかしなくても雷が通り過ぎるまでご飯もキスもお預けってこと?
雷によって2つの基本的欲求を押さえつけられた僕は嘆息するしかなかった。



2008.10.5
棗は雷はビックリするけど好きです。
子供の頃は大嫌いだったのに(笑)



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