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僕と彼女とさくらんぼ


「わぁ〜、立派なさくらんぼ!どうしたの、これ」

「管理人に貰ったんだよ」

「…雲雀くんも隅に置けないなぁ」

「何それ。意味が分からないんだけど」

「こっちの話よ」


彼女は何が面白いのかフフッと笑って、僕からさくらんぼを受け取った。
図書館から帰って来ると、明らかにエントランスで待ち伏せていた管理人のおばさんに渡されたのが、大粒のさくらんぼ。
紅くて瑞々しいそれにちょっと興味を持って、僕は素直に受け取った。
たまたま借りてきた小説の題名は『cherry kiss』。
キッチンで昴琉がさくらんぼを洗う音を聞きながら、ソファに座ってそれを開いた。
程なくして、彼女が皿いっぱいのさくらんぼと冷たいお茶を持って現れた。
隣に腰掛けて本の表紙を覗き見る。


「あ、それ借りてきたんだ。なんかタイムリーね」

「うん。貴女は読んだことあるの?」


彼女は「随分前にね」と言いながら、さくらんぼを摘み形の良い口へ運んだ。
美味しそうに食べる昴琉に頬が緩むのを感じながら、僕は本に視線を戻した。
小説の冒頭は、さくらんぼの茎を口の中で結べるとキスが上手いという話を聞いた女子高生が、こっそり練習するというシーンから始まっていた。


「…試してみようか」

「茎を口の中で結べると…ってヤツ?」

「うん」

「いいよ。よーし、競争ね!」


二人でさくらんぼの茎を口に含み、結ぼうと試みる。
一生懸命もごもごと口を動かしている貴女は実際の年齢よりも幼く見える。
たまに見せる子供っぽい仕草がドキッとする程可愛いらしい。
キスの上手い下手が懸かっているんだ。男として負けられないな。
僕も彼女に負けじと口をもごもごさせた。


「…んー、あたし出来そうにないや」

「…出来た」


僕はくるりと結ばれた茎を、口を開けて見せる。
目を丸くして「おぉ〜、本当に結べる人いるんだ」と感心している彼女を見て、ちょっとした悪戯を思いついた。


「結び方、教えてあげるよ」

「へ?」


僕は再び口に茎を含むと、昴琉の頭を引き寄せ口付けた。
彼女の口を舌でこじ開けて茎を移す。
驚いてビクッと身体を震わせた貴女の反応に気を良くした僕は、より深く口付けた。
教えてあげるなんて、貴女に触れたかっただけの、ただの口実。
十二分に堪能して唇を離すと、目前の貴女の頬は真っ赤に染まっていて。


「ワォ、さくらんぼみたいだね」

「!!…ぁ。ビックリして茎飲んじゃった…」


嫌そうに眉を顰め、喉下を摩る貴女に思わず苦笑が漏れる。
上手いとか下手とかそんなのどうでも良くて、僕は貴女とするキスが好き。
負けたのが悔しかったのか、それとも年上の意地か。
ムキになって結ぶ練習をする貴女を横目で見ながら、僕は上機嫌で再び小説の先を読み始めた。



2008.7.10


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