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あたしと彼と心拍数


「…あ」

雲雀くんと一緒にベッドに入っておやすみのキスも交わし、さあ後は瞼を閉じて寝るだけになった瞬間、あたしはふと思い出して、思わず声を漏らしてしまった。
勿論それを聞き流す雲雀くんではない。


「どうしたの、昴琉?」

「最近運動不足だからストレッチでもしようと思ってたのに、忘れちゃったなって」


こちらに来てからは雲雀くん付き添いの散歩や、買い物くらいしか外出していない。
家事は一通りやってはいるが、仕事はしていないし、自然家にいる時間が長くなる。
自由な時間が増えると、ついお茶の時間が増え、ついついお菓子に手が伸びる回数も増える。

運動しない上に食べるんじゃ、この先太るのは目に見えているわけですよ。

だからといって部屋の中でドタバタと運動するわけにもいかず、それならせめてストレッチでインナーマッスル鍛えようって思ったのね。
そうしたら丁度昼間のテレビでストレッチ特集してたんだよね。
雲雀くんがお風呂に入ってる間にこっそりやろうと思ってたんだけど、彼の隣で雑誌見てたらうとうとしちゃって…。
優しく身体を揺す振られて目を開けたら、湯上りの雲雀くんが仕方ないなって顔して笑ってました。あはは。
まぁそんな訳で、あたしはストレッチの機会をすっかり逃してしまったの。

あたしの言葉が意外だったのか、雲雀くんは切れ長の瞳をちょっとだけ見開いた。
躊躇いなく真っ直ぐ見つめてくる彼の漆黒の瞳は綺麗過ぎて、こうして改めて向き合うといつもドキッとしてしまう。
それを出来るだけ顔に出さないように頑張っているのは、妙な年上の意地だったりする。
そんなあたしの苦労なんてちっとも知らない雲雀くんは、「ふぅん」と意味あり気に笑ってこちらに手を伸ばし、あたしの頬を包むように撫でた。


「つまり貴女は体力をつけたいわけだ」

「う、うん」


何か企んでない…?
あたしは雲雀くんの笑みに警戒しつつも、いつものように自分を抱き寄せる彼に身を任せた。
優しい手付きで頬を撫でていた手が、ゆっくりとあたしの髪を梳き出す。


「それなら僕に相談すればよかったのに」

「え?何か良い方法知ってるの?」

「まぁね。心肺機能を鍛えるのなら手伝ってあげられる」


そう言って艶っぽく微笑んだと思ったら、彼は素早く唇を重ねてきた。


「ぁ…っちょ、ちょっと雲雀く…んっ」


びっくりして身を引いたが、既にあたしは彼の腕の中。
その上先程まであたしの髪を梳いていた手は後頭部に回され、がっちり頭をロック。
おやすみのキスは既に済ませているから、勿論触れるだけのキスなんて生易しいモノじゃない。
いつもなら呼吸が乱れると整える余裕くらいはくれるのに、今口付けてくる雲雀くんはそんな様子はちらりとも見せてくれない。


「こ、これの…んん…どこが…ふっ…ん…ストレッチ…なのよ…!」

「…心肺機能を鍛えるって言ったでしょ?」

「…キスなら、いつ、も…して、る…ぁっ…」

「―――ほら、集中して」


仕方なくキスの合間に喋って抵抗するも、涼しい顔で取り合ってもらえない。
それどころか窘められてしまった。
確かに雲雀くんとするキスは、心臓も肺も酷使するから心肺機能を鍛えられそうだけど、あたしが鍛えたい部分はそこじゃないっ
もっと体幹的な―――っていうか、一方的にキスされてるんだから、あたしよりも雲雀くんの方が鍛えられるんじゃ…。
勿論それは聡い雲雀くんも分かってて、本気で心肺機能を鍛えようとしているわけじゃないだろう。
キスを楽しみたいだけだ。
だってこの年下の彼は、自分のしたいことしかしない主義だもの。
それでも尤もらしい彼の口上は、甘さを増した口付けと共に続く。


「1分間のキスで消費するカロリーは約6kcal。10分間で約60kcal。
 ウォーキングと同等、もしくはそれ以上の効果はあるけど、1時間し続けたところで運動不足を解消出来るほどの消費は見込めない」

「だったら、もう…んふ…解放して…っ」

「…いいよ」


…へ?いいの?
予想外にあっさりと身を引かれ、怒ったのかと逆に不安になる。
しかし雲雀くんは濡れて赤みを増した唇に笑みを浮かべ、


「その代わり―――もっと効率良くここがドキドキすることしようか」


と、あたしの左胸―――心臓辺りを軽くトントンとノックした。
彼の艶やかな低い声と瞳に射抜かれて、油断していたあたしの心拍数が最大値を軽々とオーバーしたのは言うまでもない。



2011.10.18


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