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僕と彼女と愛の定義


「ねぇ、愛って何?」


土曜の午後。
リビングのソファで小説を読んでいた僕に、コーヒーを淹れて持って来てくれた昴琉を見上げて問う。
何の脈絡もなく唐突に質問された彼女は、綺麗な瞳を少し見開いて瞬かせた。
実に抽象的で子供っぽく、答え難い質問だ。
自分でもそうと分かっていたから、年上の彼女には適当にあしらわれると思っていたのだが。


「うーん…」


難しい顔をしながらテーブルに白い湯気が立ち昇るコーヒーカップを置くと、昴琉は僕の横に腰を下ろした。
どうやら真面目に答えてくれる気らしい。
彼女は軽く握った手を口元に当てて、瞳を閉じて暫し考える。
考えが纏まった彼女がこちらを向いた。


「…見返りを求めず、ただその人に何かしてあげたい、そう思う気持ち…なのかなぁ」


答えを口に出してはみたものの、彼女自身にとっても決定打ではないらしい。
何とも語尾が頼りない。
しかし、僕はなるほどと思った。
彼女は僕にそう接してくれているし、いつの間にか僕も彼女にそう接している。
でもその言葉だけでは片付けられない感情も同時に存在していた。


「好きな相手にああして欲しい、こうして欲しくないと思うのは、愛ではなく我が侭になるのかい?」

「たとえば?」

「愛らしさが引き立つから貴女に可愛い服を着て欲しいけど、その姿を他の男には見られたくないからあまり念入りにお洒落して欲しくないとか」


読んでいた小説を脇に置いて、彼女の方へずぃっと身を乗り出して悪戯っぽく言ってみる。
昴琉はほんのり頬を染めたが、会話を続けることで恥ずかしさから逃れたようとする。


「それも好きだから思うことよね。だ、だって、あたしも同じこと君に思うもの。
 どうでもいい人にはそんなこと考えもしないじゃない?」


逃避失敗。
彼女は結局自ら墓穴を掘って、頬のみならず耳まで赤く染めた。
それでもちゃんと答えてくれるのは、年上の余裕なのかな。


「奥が深いね」

「そうね。感情を言葉にするのはとても難しいわ。
 ……だからこうして触れたいと思うのかも」


そう呟いて、昴琉は僕の頬に白く細い指で触れた。
赤いままの顔が慈愛に満ちた柔らかい微笑みを浮かべる。

―――トクンと胸が鳴った。


「…誘ってる?」

「!!バ、バカっ」


からかわれたと思って怒った昴琉は、触れていた指でそのまま僕の頬を抓った。
優しい彼女は手加減をしてくれていたが、それでもそこそこに痛い。
酷いな。
僕は思ったことを言っただけなのに。
だって好きなヒトが自分に想いを伝える為に触れたんだよ?

……男なら襲いたくなるでしょ。

少しくらい僕の恋心を酌んでくれたっていいじゃないか。
ちょっとムカついて口をへの字に曲げると、貴女はクスクス笑いながら「痛かった?」とまた僕の頬に触れた。
彼女に与えられた痛みが、彼女で癒される不思議な感覚。
貴女には何をされても許せてしまう。

これも愛なのかな。

結局明確な愛の定義は得られなかったけれど、昴琉の笑顔を見ていたらどうでも良くなってしまった。
貴女が僕を好きなら、理屈で説明出来なくても構わないって、そう思ったから。



2010.12.18


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