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あたしと彼とドロップ


隣に座る雲雀くんが綺麗な黒髪を揺らしてコホンと咳払いをした。


「喉、痛いの?」

「いや。少しいがらっぽいだけ」


顔を覗き込んで訊くと、彼は少しばかり不快そうに首を摩りながら答えた。
そういえばマンションに帰ってきてから、ずっと喉元を気にしている。
風邪ではなさそうだけど、喉がいがいがするのって気持ち悪いよね。
喉に良い物、何かあったかしら。
はちみつは切らしているし、生姜も昨日使い切っちゃったんだよね…。
そこまで考えて、あたしは二三日前に懐かしくて買った缶入りドロップの存在をはたと思い出した。


「飴舐める?」

「飴?」

「うん。生憎のど飴じゃないけど、少しはマシになるかも」


あたしはソファから立ち上がって、キッチンに置いてあった缶入りドロップを手に取ると、すぐに彼の横に戻る。


「手、出して」


素直に出された雲雀くんの掌に、カラカラと缶を振ってドロップを一粒出した。
黄色だからレモン味かな。
薄荷でも出ればスースーして良かったかもしれないなぁ。
缶入りドロップって何が出てくるか分からない楽しさがあって、子供の頃は凄くワクワクしたっけ。
雲雀くんはちょっとだけ掌の上のドロップを見つめていたけれど、ポイッとそれを口の中に放り込む。
コロコロと彼が口内でドロップを転がす度に頬が膨れる。

…可愛いなぁ、もうっ

思わずにやけてしまって、あたしは雲雀くんにばれないように慌てて下を向き、ドロップの缶に蓋をした。
無言で舐め続ける彼に訊く。


「どう?少しは楽?」

「……飽きた」

「え?んん?!」


唐突に雲雀くんに引き寄せられて、唇を押し付けるように重ねられる。
引き結んでいたあたしの唇を抉じ開けて、何か硬い物がコツンと歯に当たった。
押される力に負けて口を開けると、甘酸っぱいレモンの味が口内に広がる。
雲雀くんが自分の舐めていたドロップをあたしに口移したのだ。
それを理解した途端、あたしの顔は熱を発した。


「な、何であたしによこすのよ…!噛んじゃえばいいじゃない」

「嫌だよ。歯についていつまでも甘いし」


彼はムスッとして言う。
どうやら喉の不快感は彼の機嫌も損ねているらしい。
…だからって味に飽きたという理由で、普通ヒトに舐めかけのドロップをよこすかね。
味には飽きても、ドロップは気に入ったようで。
年下の彼は再びあたしの前に掌を広げた。


「昴琉、他の頂戴」

「……君はホントに自由だねぇ」


―――そこがまた雲雀くんらしくて好ましいのだけれど。
口内に押し込められたドロップをコロリと転がし、苦笑を漏らしながら缶の蓋を開て、あたしは催促する彼の手に新しいドロップを出してあげた。



2010.11.18


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