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僕と彼女とキャンドルライト


最愛の彼女と二人、ソファに座って夕食後のコーヒーを飲みながらテレビを観ていると、プツン!という音と共に突然部屋全体が暗闇に包まれた。


「やだ。停電?」

「そうみたいだね」

「…落雷じゃないよね?」


不安げにこちらに身を寄せて、昴琉が呟く。
年上の彼女は雷が大の苦手だった。
あちらにいる時にそれで酷い目にあったのを思い出して、僕は心の中で苦笑を漏らす。
暗闇で昴琉の表情は見えないが、恐らく今にも泣き出しそうな顔をしているに違いない。
僕は安心させてやろうと彼女の肩を抱き寄せ耳を澄ます。


「…雷鳴聞こえないし、多分違うよ」

「そ、そうだよね。んもう、映画いいところだったのに」


昴琉は僕の言葉にホッとしたようで身体から力を抜いた。
観ていた映画は録画もしていたが、停電ではそれも意味がない。
会話を止めると、居間は静寂に包まれた。


「灯りがないと心許無いね」

「僕がいても?」


一瞬の沈黙。
僅かな動揺が彼女に回した腕から伝わってくる。
きっと、照れてる。


「…気障。懐中電灯ってある?」

「いや」

「うーん…あ、そうだ」


何か思い出したらしい。
昴琉はソファから立ち上がると恐る恐る暗い部屋の中を歩き出した。
ガタガタと何かを漁る音が聞こえたかと思うと、オレンジ色の灯りを手に戻って来る。
彼女はそれを大事そうにテーブルの上に置いた。


「ワォ。蝋燭なんて買ってたの?」

「うん。アロマキャンドルなんだけどね。
 これなら明るいし、香りも楽しめるし、怖さも凌げるかな〜っと思って」


…僕はちっとも怖くないんだけど。
元いた場所に腰を下ろす彼女にそう言おうとして、僕は口を噤んだ。
柔らかな灯火に照らされた彼女の微笑みがとても綺麗で、それを否定の言葉で壊すのが惜しまれたから。
明るさと香りの部分だけなら同意してもいいかな。


「そうだね」


肯定の言葉に嬉しそうに微笑む彼女を再び抱き寄せ、揺らめくアロマキャンドルの炎を一緒に見つめる。
灯火と昴琉、二つの温もりが穏やかに僕の心を満たしていく。
余計な音のない空間が心地好い。
停電ひとつでこれほど静かになるのだから不思議なものだ。
思わぬハプニングがくれたこの空間を暫くを楽しもう―――そう思った矢先、パッと室内が明るさを取り戻した。
無情にも停電が回復したようだ。


「早く復旧して良かったね」


ホッとしたように言ってキャンドルの火を吹き消そうとした彼女の口を、些か乱暴に手で塞ぐ。
そしてもう片方の手でテーブルの上のリモコンを掴み取って、僕は電気を消した。
再びアロマキャンドルの柔らかな灯りが部屋を支配する。
口を塞がれたまま驚いて僕を見つめる昴琉に、


「たまにはこういう夜もいいでしょ?」


と囁いて今度は手の代わりに唇で彼女のそれを塞いだ。

言った台詞とは裏腹に、僕と彼女の甘やかな吐息は静寂を破る。


―――――灯りが消えるまで、ずっと。



2010.10.10


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