僕と彼女と危険運転
※5話の裏話。僕は今ある女の人が運転する車の助手席に座っている。
理由は分からないが僕の生きていた世界とは別のこの世界に飛ばされてしまった。
そんな僕の面倒を見ると買って出たのが、今運転している彼女だ。
普通知らない男が自宅に入り込んでいて、そのまま一晩泊めたりしない。
しかも異世界から来たかもしれないなんて話になって、それをすんなり信じた挙句、面倒見るなんてあり得ない。
余程のお人好しか、何か企んでいるのか。
彼女は前者の方に見えるが、もし後者だとしても僕は何も持っていないし、荒事を切り抜けるのは慣れている。
実際どうにもならないから、彼女の申し出を受けて様子を見ることに決めた。
そんな経緯でこれから僕の生活用品を買う為に駅前のデパートに行くらしいんだが…。
キーッ!急停車…。
ブォン!急発進…。
さっきからこれの繰り返し。
久し振りの運転だと言っていたが、彼女の腕が悪いというわけではない。
スピードを出すわけでもない。
寧ろ女性にしては思い切りのいい運転だけど、スタントマンのそれに近い。
ハンドルを握った彼女の横顔は勇ましい限りだ。
普段の温和な笑顔が嘘のよう。
少々渋滞しているのを考慮しても、こう短時間で繰り返されると、流石の僕も気分が悪くなってきた。
「ねぇ、デパートまだ?」
「んー、もうちょっとかかるかな〜」
「そ、そう」
「どうして?」
「……何でもない」
彼女は僕の変化に気付かない。
気持ちが悪いなんて弱音を吐くのは僕のプライドが許さない。
そうだ、こういう時はなるべく遠くを見たほうがいいって聞いたことがある。
気が付くと目の前のダッシュボードを見つめてしまうから、意識的に視線を遠くに持っていく。
キーッ!急停車…。
前に持っていかれる身体をシートベルトに押さえつけられてウッとなるが、堪える。
結局デパートに着く頃には完全に僕は車酔いしていた。
やっと僕の様子に気が付いた彼女は、心配そうに「顔青いよ?大丈夫?」と覗き込んできた。
…貴女のせいだって。
「昨夜あんまり寝てなかったもんね。寝不足で調子悪くなっちゃった?」
だから、貴女のせいだってば…!
天然なのか…?
この僕を車酔いさせるなんて、ある意味強者だ。
益々興味が湧いて来たよ。
こちらの生活も退屈しなくてすみそうだ。
帰りも彼女の運転する車に乗るかと思うと、珍しく僕の気持ちは萎えた。
堪えられる自信が……ない。
予想通り、僕は酔った。
…いつか仕返ししてあげるから、憶えておきなよ…!
2008.5.2
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