×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

オレと委員長と待ち望んだ対面


※49話直後のお話。草壁さん視点。

「哲。僕の部屋に布団敷いて」

「へぃ」


屋敷に戻って来た恭さんは、開口一番にそうオレに命じた。
彼の腕にはしっかりと小柄な女性が抱きかかえられている。
この女性が恭さんの想い人、桜塚昴琉さんか…。
群れることを嫌い孤高を保ってきた彼が長年想い続けてきた女性。
どんなヒトなのかとオレも会えるのを楽しみにしていたのだが、彼女は今、瞼を閉じ脱力した身体を恭さんに預けていた。
呼吸は落ち着いているようだが、少し顔色が悪い。
どこか具合が悪いのだろうか。


「医者を呼びますか?」


オレは大股で前を通り過ぎた恭さんの後を追いながら訊く。


「いや、気を失っているだけだから」

「何かあったんですか?」

「…ちょっと力加減を間違えた」


オレの質問に、恭さんは珍しく決まりの悪そうな表情を浮かべてぽつりと言った。
彼の言葉の意味が理解出来ず心の中で首を傾げる。
力、加減…?
まさか恭さん、こちらに送り帰されたことを未だ根に持っていて、彼女にトンファーの一撃を…?
いや…こんなに大事そうに抱きかかえているんだから、流石にそれは無いか。
何があったのかは分からないが、兎に角まずは布団だ。
オレは「先に行っています」と断って、恭さんを追い越し彼の部屋へ急いだ。


***


布団を敷き終わると傍らで待っていた恭さんは、壊れ物を扱うように彼女をゆっくり布団の上に下ろして寝かせた。
出来るだけ服が皺にならないように整えてからそっと布団を掛け、自身はその横に腰を下ろす。
全く起きる様子を見せない桜塚さんの頬を指先で撫でて、恭さんは安堵したかのように小さく息を吐いた。
その様子にオレも安堵し、視線を布団に横たえられた恭さんの彼女に移す。
それに気が付いた恭さんは、彼女を見つめたまま言った。


「可愛いでしょ」

「へぃ、とても」


オレは素直に頷いた。
年上だと聞かされていたが、小柄な体型やどこかあどけなさを残す顔はあまり差を感じさせない。
愛らしく清楚な印象は、この女性の心のあり方が滲み出ているからだろう。
なるほど、恭さんが自慢したくなるのも分かるというものだ。


―――話をしてみたい。


そう思った。
きっと実際に話せば、彼女の良さがもっと分かるに違いない。
桜塚さんの寝顔を見つめたまま顔を綻ばせたオレに、恭さんは低い声で警告した。


「手を出したら咬み殺す」

「だ、出しませんし、出せませんよ!」


見定めるかのように半眼でオレを睨んだ恭さんは、フンと鼻を鳴らしてまた眠る彼女に視線を落とす。

途端に和らいだその視線が、あまりに慈しみに満ちていて。

オレは自分の主が初めて見せた表情に戸惑ってしまった。
いつもは冷酷ささえ感じさせる漆黒の瞳が、心なしか潤み、赤い。
もしや…泣いたのだろうか。
恭さんが泣くなど全く以てあり得ないし想像出来ない。
だが、彼が自分の腕に彼女が戻るこの日を5年も待ち望んでいたのだという事実が、すんなりそう思わせた。
恭さんは先の見えぬ日々を、ただ一途に桜塚さんだけを想い続けていた。


それだけに、彼女への恋情は深く、激しい。


普段と変わらず気丈に振舞っていても、時折見せたあの胸が張り裂けそうな切ない表情をオレは知っている。
オレはもう一度横たわる彼女に視線を落し、恭さんに言う。


「良かったですね、恭さん」

「…あぁ」


オレの言葉に恭さんは低いけれど穏やかな声で答えた。
どこか力強い決意を孕んだそれに、紛れもなく恭さんを『男』に変えたのは彼女なのだと確信する。
守るべき者が出来たのだ。


―――――恭さんは今まで以上に強くなる。


オレも側近として恥ずかしくないよう精進しなくてはいけないな。
部下としての決意を新に胸を熱くしていると、不機嫌そうな主の声が飛んできた。


「いつまで見てるの?咬み殺すよ」



2010.5.1


|list|