あたしと彼とマッサージ
うぅ、全身がだるい…。
それもこれも急に模様替えを始めると言い出した部長のせいだ。
そんな時に限って男性社員の殆どが外回りに出ていた。
基本的に部長は良い人なんだけど、こうと決めたら頑として意見を変えないんだよね。
お陰で重たい段ボールを何個運んだことか。
入浴剤を入れたお風呂に長めに浸かって、念入りにマッサージしたけどまだスッキリしない。
明日は筋肉痛かも。
ベッドの端に腰掛けて肩や腰をトントン叩くあたしを見て、一足先にベッドに潜り込んでいた雲雀くんが起き上がる。
「随分疲れているみたいだね、昴琉」
「うん、ちょっとだけ。一晩寝ちゃえば大丈夫よ」
苦笑して彼の隣に潜り込んだあたしを、雲雀くんは綺麗な漆黒の瞳でジッと見つめてきた。
う、何だろう…ドキドキするからそんなに見ないでほしいよ。
堪らなくなって布団を口元まで引き上げる。
「…揉んであげようか」
「へ?」
「マッサージしてあげるって言ってるんだよ」
「えぇ?!いいよいいよ!悪いもん」
「遠慮はいらないよ。ほら、うつ伏せになって」
「わっ」
雲雀くんは不敵な笑みを浮かべると、有無を言わさず布団を取っ払い、寝転がっていたあたしの身体を反転させる。
そしてうつ伏せの状態のあたしの身体を跨ぎ、背中に手を付くとぐいぐいと力強くマッサージを始めた。
「ひ、雲雀くん…痛いよ…!」
「…煩いね」
雲雀くんは不機嫌そうな口調で言いながらも力を弱めてくれた。
首から腰へと背骨に沿って彼の指がしなやかに動き、緊張した筋肉を解していく。
わわ、雲雀くんにこんなことしてもらっていいのかな。
でも他人にマッサージしてもらうなんて久し振りだし、正直凄〜く気持ち良い。
抵抗すると怒らせちゃいそうだし、折角だから彼のお言葉に甘えさせてもらっちゃおうかな。
気持ち良さに抗えず、あたしは顔を横に向けて枕に頭を預けた。
雲雀くんが力を入れる度に布団に身体が押し付けられて、自然と声が漏れる。
「ん…ぁっ…ふぅ…やだ、そこ気持ち良い」
「……」
「はぁ…んんっ…ひゃんっ」
何往復目か。
彼の指がいい具合に痛い場所に触れた。
あたしはベッドに手を付き上体を起こして振り返り、痛みで潤んだ瞳を自分に跨る彼に向けお願いする。
「雲雀くん、もっと優しくして?」
「―――ッ」
マッサージしていた雲雀くんの手が止まり、一瞬にして色白な彼の顔が真っ赤になる。
へ?な、何?
耳まで真っ赤にした雲雀くんは、何かに耐えるようにきゅっと口を真一文字に結んだ。
「…貴女、咬み殺されたいの?」
「え?」
「……もういい。寝る」
「!!」
雲雀くんはあたしの二の腕を掴んで自分の方に引き寄せると、唇を重ねてきた。
おやすみのキスにしては少々荒っぽい。
噛み付くように深く求められ、解放された時には自分でも分かるほどに顔が熱かった。
至近距離で彼に見つめられて、また胸が騒ぐ。
「雲雀、くん?」
「…おやすみ」
彼は少しだけ切なげな表情を見せたけれど、あたしを抱き込んで布団に潜った。
変な雲雀くん。
抱き締められたまま、手探りで枕元のリモコンを掴み灯りを消す。
いつもより心持ち早い彼の心音を聴きながら、あたしも「おやすみ」と呟いて瞼を閉じた。
2009.11.27
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