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あたしと彼としゃっくり


ソファで本を読んでいた雲雀くんは顔を上げると、隣で胸元を押えしゃっくりを繰り返すあたしを見た。


「ずっとしてるね」

「そう、ヒック、なの…ヒック。何だか止まら、ヒック…くて」


帰宅してから出始めたしゃっくり。
初めはあまり気にしていなかったが、夕食を食べ終わった今も一向に止まる気配がない。
お水を一気飲みしてみたり息を止めてみたりするけれど、もう二進も三進もいかない。
しかも雲雀くんの前だし恥ずかしくて…!
しゃっくり混じりのあたしの答えに、雲雀くんは真剣な面持ちで口を開く。


「しゃっくりを100回すると死ぬって言うよね」


彼の言葉にあたしはしゃっくりをしながらパチパチと瞬きをした。
まさか雲雀くん信じてるの?
垣間見えた彼の子供の部分に思わず苦笑が漏れる。
あまり長い時間出続けるのは何かの病気の症状だって言うのは聞いたことあるけど、流石に100回しゃっくりが続いても死にはしない。
だって、100回なんてもう既に超えてると思うもの。


「迷信、ヒック、でしょ?」

「そうかもね。……でもそうじゃなかったら?」


雲雀くんは開いていた本にしおりを挟むと、パタンと閉じて自分の膝の上にそれを置いた。
そして本に視線を落としたまま、ぽつりと呟く。


「貴女に死なれたら…つまらない」


彼の淋しそうな横顔に胸がきゅぅっと狭くなる。
いつも強気な君がそんな顔するなんて…。
何と声をかけていいのか分からずただしゃっくりを繰り返していると、雲雀くんはニヤリと笑って横目であたしを見た。
な、何?!
彼は突然あたしの鼻を指で摘んだ。
―――そして唇を彼のそれで塞がれる。


「!!!」


呼吸の為の器官を二つとも塞がれて、あたしは動揺した。
自分の顔が苦しさでドンドン熱を帯びていくのが分かる。
ちょ、ちょっと!息出来ない…!
そんなことはお構いなしに口付けてくる雲雀くん。
堪らなくなってあたしは身を捩り、彼の胸を力いっぱい押して触れ合う唇を引き剥がした。
いきなり肺に流れ込んだ空気に軽く咳き込み、涙の滲む目で小生意気な笑みを浮かべる雲雀くんを睨む。


「ほ、本当に死んじゃうじゃない…っ」

「でも止まったね」

「え?」

「しゃっくり」


……あ、本当だ。
さっきまであんなに出ていたのに、今は彼の言うとおり止まっている。
驚き戸惑っているあたしの頬に「良かったね」と軽くキスをして、彼は再び膝の上の本を開いて読み始めた。


「…もしかして今のキス、これを狙ってしたの?」

「まぁね。いつまでもされてると気が散ってゆっくり本が読めないから」


頁を捲りながら憎まれ口を叩く彼に、あたしの口角は自然と上がる。
だってそんなこと言いながら雲雀くんの頬ほんのり赤いんだもの。
本当は彼も迷信なんて信じていなくて、あたしを驚かせてしゃっくり止めてくれたのよね?
あたしはちょっと距離を縮めて彼の肩に自分の頭を預けた。


「でもありがと。雲雀くん」

「…うん」


本に視線を落としたままだったけれど、今度は表情を和らげて雲雀くんはこくりと小さく頷いた。



2009.7.7
素直にそうだと言うのはまだちょっと照れるから。
10代の雲雀くんの不器用な優しさ。



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