あたしと彼ととある午後
「んん…ふっ…」
重なる唇の間から吐息が漏れる。
それすら逃すまいと雲雀くんは深く口付けて来る。
目の前のテーブルには食べかけのケーキと、少し温くなった紅茶のカップが二人分。
ついさっきまでソファに座って普通に談笑していたはずなのに、今のあたしは彼に抱き寄せられて唇を塞がれていた。
きっかけは…ただ目が合っただけ。
眩暈がするほどの長いキスから解放されて、あたしは乱れた呼吸を落ち着ける為に大きく息を吸い込んだ。
「…本当に雲雀くんってキス好きよね」
「美味しいからね、貴女」
そう言ってペロリと彼は自分の唇を舐めた。
…ほ、本当にこの子中学生なのかしら。
歳に似合わない艶のある仕草に、キスで上がった心拍数が更に上がる。
「お、美味しいって…それは今ケーキ食べてたから」
「そういうんじゃないよ」
「…じゃぁどんな?」
「口で説明しろって言われると困るけど。
僕の中では『美味しい』って表現が一番ピンと来る」
雲雀くんはあたしの顎を掬い上げ、親指でまだ濡れたままの唇をなぞった。
その物欲しそうな表情からまだ彼が満足していないと分かる。
「昴琉はどうなの?」
「え?」
「僕とのキス。どんな感じ?」
正に興味津々といった感じで雲雀くんが訊いてきた。
どんなって言われても…甘いような、溶けちゃいそうな、でも苦しくて、幸せで…。
―――あぁ、確かに表現出来ないかも。
雲雀くんが面白そうに見つめていることに気が付いて、考え耽ってしまったあたしは慌てて答えた。
「わ、分からないわよ。そんな余裕くれないじゃない」
「ふぅん…なら、今度はしっかり僕を味わってよ」
色気たっぷりに微笑んだ彼にまた唇を塞がれる。
…何が味わってよ。
さっきよりは優しいキスだけど、結局味わっているのは雲雀くんじゃない。
いつだって年下の君に翻弄されて。
年上の威厳もあったもんじゃないわ。
それでもまたキスしたいと思うんだから、雲雀くんの言うとおり『美味しい』のかも。
それを確認する為にももっとキスして?
―――テーブルの上の紅茶が完璧に冷めるまで。
2009.4.24
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