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オレと彼女と委員長


※新居へ移る前のお話。草壁さん視点

「あ、草壁くん」


廊下の向こうからえっちらおっちら歩いて来た小柄な女性、桜塚昴琉さんは心なしホッとしたようにオレの名を呼んだ。
頬を上気させている彼女は、なんと異世界の住人なのだ。
つい最近、恭さんが5年という長い年月を掛けてこちらに呼び寄せることに成功して、今はこの屋敷に身を寄せ恭さんと暮らしている。
普段部屋から殆ど出ることのない(恭さんが出さないのだが)彼女が、こんな所にいるのは珍しい。


「どうかなさいましたか?」

「この間借りた本、読み終わったから返そうと思って」


彼女は柔らかな微笑を浮かべて、胸に抱えていた本をオレの方に差し出した。
テレビばかり観ているのも飽きるというので、暇潰しにとオレの持っていた本を貸したのだ。


「それの為にわざわざ?…ありがとうございます」

「こちらこそ。とっても面白かったわ。ラストなんて泣いちゃった」

「そうですか?では他にも良い本があるので、後程部屋にお持ちします」

「わ、本当?ありがと。今度お礼しなくちゃね」

「いえ、お気になさらず。
 ……ところで恭さん。何をしているんですか」


先程から気になっていた疑問を我が主に投げかける。
恭さんは背後から覆い被さるように彼女に抱きついていた。
廊下を歩いてくる時からずっと。


「何って。君の目は節穴かい?抱きついてるんだよ」

「はぁ。言い切られてしまえばそれまでですが…」


如何にも不機嫌そうな主の鋭い視線にたじろぐ。
念願叶って最愛のヒトをその手にしたのだから、始終離れたくないという恭さんの気持ちも分からないではない。
しかしこの体勢が、小柄な桜塚さんにとって負担が大きいのはどう見ても明らかだ。
どうしたって上から抱きつかれれば体重がかかるというものである。
しかし抱きつかれている当の本人は、頬を赤くし息を弾ませてすらいるのに嫌がる素振りは見せていなかった。
それがまた気の毒でオレは恭さんに視線で訴えかけたが、プイッとそっぽを向かれてしまった。

恭さん…貴方子供ですか。

それに気が付いた桜塚さんがパタパタと手を振る。


「へーき、へーき。こっちに来てからずっとこんなだし。
 草壁くんのところへ本を返しに行くって言ったら、『僕も行く』って部屋からこの調子でついて来ちゃっただけだから」

「へ、部屋からですか?!」

「うん。だからここで草壁くんに会えて実はホッとしてたの」


はにかみながら笑う彼女に脱帽する。
ここから二人の部屋までかなりの距離がある。
そこまでして返しに来なくても…思わず苦笑してしまった。
黙ってオレ達の会話を聞いていた恭さんが、遂に痺れを切らし口を挟む。


「いつまで群れてるの?用が済んだのなら帰るよ」

「あ、うん。それじゃまたね、草壁くん」

「へぃ」


来た時と同様、彼女は恭さんに抱きつかれたまま部屋に戻り始めた。
恭さんの我が侭を受け入れられる彼女の懐の深さは、長年彼に従ってきたオレにはちょっと感動モノだ。
そして群れるのを嫌う恭さんが、あんなに誰かにくっ付いているのも新鮮で。


―――――これも、『愛のなせる業』ってヤツですか。


本当に恭さんは彼女が好きで。
彼女も恭さんを好きで。
そんな二人が共に過ごせる日々が再び訪れて、本当に良かった。

ヨロヨロと元来た道を戻る二人の姿を、オレは微笑ましい気持ちで見送ったのだった。



2009.3.18


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