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オレは屋上へと続く階段を駆け上っていた。
後ろには獄寺君と山本もついて来ている。

授業中うっかり寝てしまったオレの夢に入り込んで来た骸は、ヒバリさんが並盛に戻って来ると言った。

何でだよ…!何で…!!
オレ、ちゃんと言ったじゃないか…ッ
オレ達の勝手な都合で、2人の仲を裂くようなコトは出来ないって!
リボーンだってオレが決断したなら仕方ないって言ってたじゃないか…!

骸はリボーンに頼まれたって言ってたけど…。
まさか骸に説得されてヒバリさん自分から…?それとも骸のヤツ無理矢理連れて帰ってきたのか?!

骸の話が本当なら屋上にヒバリさんは戻ってくるはずだ。
屋上へ続くドアの前についたオレは、上がった息もそのままにそれを勢い良く押し開いた。


ヒバリさんは…いた。彼が消えた正にその場所に。
いつもの学ラン姿で、いつの間にか懐いてしまったバーズの鳥を肩に止まらせて。


勢い良く開いたドアの音に、ヒバリさんは振り返ってオレを見た。
その姿に一先ず彼が無事だったコトに安堵の溜め息が漏れた。


「ひ、ヒバリさん!良かったぁ〜。戻って来れたんですね」


獄寺君も山本もそれぞれヒバリさんのことは気にしていたみたいで、各々声をかけた。
声をかけられたヒバリさんは自分の置かれた状況が把握出来ずにいるような顔をしている。
どうしよう…何て声をかければいいのかわかんないや…。
と、取り敢えず状況の説明をしてみよう。
珍しくボーッとしている雲雀さんに、オレはしどろもどろに説明を始めた。


「あ、あの、骸が夢に出てきて、ヒバリさんが帰ってくるって教えてくれて…。
 ランボのせいで酷い目に合わせちゃってすみませんでした!」


学ランのポケットに手を入れ、僅かに表情を変えたヒバリさんは静かな声を発した。


「…六道骸を使って僕をこちらに呼び戻したのは君かい?沢田綱吉」

「えっと、正確にはリボーンが…」

「………ろす」

「へ?」

「咬み殺す…!!」

「ひ、ひぃぃぃぃぃーーーー!!!」


やっぱり無理矢理連れ戻したのかぁぁぁーーーーー!!
案の定怒り狂ったヒバリさんは、仕込みトンファーを振り回し屋上を縦横無尽に駆け回る。
穏やかだった屋上は一気に戦場と化した。
戻ってきたばかりの風紀委員長は声を荒げて「あちらに戻せ!」と叫び、得物を振るう。
結局獄寺君も山本も彼の強力な一撃に伸されてしまって、逃げ回っていたオレもフェンス際に追い詰められてしまった。
こ、このままこのヒト暴れ続けたら並盛壊滅しちゃうよ…!
だけど…眼前に迫るヒバリさんは怒っているのに、凄く哀しそうで。

ヒバリさんにこんな顔をさせてしまったんだから、ボコボコにされても仕方ない…。

そう覚悟を決めた時、急にヒバリさんが後ろに跳び退った。
それと同時に彼の羽織っていた学ランが宙を舞う。
どうやらリボーンが銃弾を撃ち込んで助けてくれたらしい。
ヒバリさんの意識は完全にオレからリボーンに移った。

一度は覚悟したものの殴られなかったコトにホッとして足元に落ちたヒバリさんの学ランに目を向ける。
するとそれから少し離れた所に小さな箱をが落ちているのに気が付いた。
箱は蓋が開いていて、キラッと光る指輪が覗いていた。

もしかして、コレって…?!

オレはそれを拾って、リボーンと睨み合ったままの彼に恐る恐る差し出す。


「あ、あの!ヒバリさん!これ…」

「!!」


オレが差し出した手を視線だけで確認したヒバリさんの顔色が変わった。


「…それに触るな!」


足元にトンファーを投げつけられて、オレは箱を宙に放り腰を抜かして尻餅をついた。
ヒバリさんはそれをキャッチして握り締めるようにして蓋を閉じる。
やっぱり、アレ婚約指輪なんじゃ…。

―――――ヒバリさん真剣に彼女さんのこと想ってるんだ。

オレがただ呆然と尻餅をついている前でリボーンは何か取引を持ちかけ、ヒバリさんはそれに不承不承納得したらしかった。
こちらにやって来たリボーンはオレに急に蹴りを入れた。


「情けねぇぞ」

「い、イテテ!いきなり何するんだよッ」

「ハハ、小僧容赦ねーのな…」

「10代目!お怪我はありませんか?ヒバリの野郎…!思いっ切り攻撃しやがって」

「オレは、平気」


ヒバリさんの攻撃で伸びていた2人もよろよろとこっちへやって来た。
その時学ランとトンファーを拾うヒバリさんと一瞬目が合ったけど、彼は何も言わずプイッと後ろを向いてドアの方に歩いて行ってしまった。

その背中が、何だか泣いてるように見えてしまった。

ヒバリさんが泣くなんてありえないんだけど、さ。
でもオレにはそう見えたんだ。
みんなも同じコト考えたのかな。
ヒバリさんの姿が校舎に消えるまで、その背中を黙って見送った。

一段落したのも束の間、オレは大事なコトを思い出した。
同じ様にヒバリさんを見送っていたリボーンに食ってかかる。


「そうだ、リボーン!どういうコトかちゃんと説明しろよ!
 おまえオレに決断させといて、骸まで使って…裏で何やってたんだよ!」

「ちょっとヒバリの彼女に協力を頼んで、彼女自身の手でヒバリをこっちに送り帰してもらった」

「な、何だってー?!!どうやってそんなコト…」

「骸に話をつけてもらった。ヒバリの隙を突けるのは彼女くらいだからな。
 帰還用の銃を彼女に渡してヒバリを撃ってもらった」

「そ、そんな…!ヒドイよリボーン!ヒバリさん何も知らないで撃たれたってコトだろ?!
 その彼女さんだって…!」

「吠えるな、バカツナ。確かにおまえの言いたいことは分かる。 
 だがな、世の中綺麗事だけじゃ上手く回わらねぇ。
 ヒバリの彼女だってそれが分かっているから、協力してヒバリを送り帰してくれたんだぞ」

「でもだからって…!」

「おまえの決断はマフィアのボスとして甘過ぎるんだ」

「だから!何度も言ってるだろ?!オレはマフィアなんかにならないって!!」
  
「オレの教え子ならいい加減自覚を持ちやがれ!
 おまえがいつまでも中途半端なままじゃ、おまえ自身だけじゃなくファミリーにも危険が降りかかるんだぞ。
 今回のおまえの決断は決断なんて呼べるもんじゃねぇ。何もしないで見て見ぬ振りをしたのと同じだ。
 よっぽど行動を起こしたヒバリの彼女の方が肝が据わってる。男として情けねぇと思わねーのか」


リボーンはいつになく鋭く言い放った。その顔は真剣そのもの。
いつも無茶苦茶で言いたい放題のリボーンが、本当は一番オレのことを考えてくれてるのは分かってる。

分かってるけど…!甘くたっていいじゃないかッ

誰かを犠牲にして自分の身を守るのなんて、オレ絶対嫌だ!
ヒバリさん、あんなに取り乱すほど彼女さんのこと好きなんだぞ?!
彼女さんだって自分の想いを殺して送り帰すくらいヒバリさんのこと好きなんだろ?!
それをオレ達の勝手な言い分で引き離していいわけないじゃないか・・・ッ
少しリボーンに気圧されながらも、好き勝手されて頭にきていたオレはグッと拳を握って怒鳴った。


「そんなに言うなら、無理に連れ戻されたヒバリさんが納得するようにしろよ!
 オレこのまま2人が離れ離れになるのなんて絶対嫌だ!
 これはボンゴレ10代目としての命令だからな!」

「フッ」

「な、何だよ」

「やっと認めたか」

「認めてないよ!嫌味言ってんだよ!」


リボーンは表情を崩すと、いつものようにニッと不敵な笑みを浮かべた。


「心配すんな。ヒバリとは既に交渉済みだ。
 あちらの世界に残してきた彼女をこちらへ呼び寄せると約束した。
 その代わりヒバリには雲の守護者としての役目を果してもらうけどな」

「へ?呼び寄せる?そんなコト出来るの?!」

「ボンゴレとボヴィーノ、他の同盟ファミリーの総力を挙げれば可能だろうな。
 ツナ、ボンゴレ次期ボス候補のおまえが動けばみんな協力してくれるはずだぞ」


思い掛けない話にオレは目を丸くした。
こいつ…ここでオレが断らないの分かってて話進めてたな…!
はぁ〜…全くリボーンには敵わないや。
何かオレ、このまま何だかんだでマフィアのボスに仕立てられそうな気がする。
自分の未来を想像して深い溜め息を零した。


「どうするんだ、ツナ」

「決まってるだろ。オレにしか出来ないなら、やるよ」

「それでこそ10代目!流石オレの見込んだ御方だっ」

「オレ達にも出来ることがあったら手伝うから、じゃんじゃん言ってくれよ!」

「ありがと、獄寺君、山本」


「いいファミリーを持ったな」と小生意気にリボーンが笑う。
だから、ファミリーじゃなくて友達だって…。

ヒバリさんの彼女をこちらに呼ぶのに、どれくらい時間がかかるか分からないけど。
それでもオレに出来ることがあるなら全力で取り組もう。
少しでも早くヒバリさんがあの指輪を彼女さんに渡せるように。

不可抗力だといえ、それがヒバリさんと彼女さんを引き裂いてしまったオレの責任だ。

オレは立ち上がりながらそう固く心に誓った。



a quirk of fate in 並盛5
〜風紀委員長の帰還〜
END
2008.12.2



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