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「#エロ」のBL小説を読む
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ヒバリさんが姿を消して、まず風紀委員が動揺した。

そこは副委員長の草壁さんが上手くカバーしているらしく大きな乱れはなかったが、不良同士の小さないざこざを街中で見かけるようになった。
風紀委員は通常の見回りを強化して、別班を設けて交代制でヒバリさんの捜索もしているらしい。
一瞬居場所を教えようかと思ったけど、「ヒバリさんなら異世界にいますよ〜」なんて言っても信じてもらえるわけないから黙っておくことにした。
登校中の今も風紀委員が通学路の要所に立って見張っている。
はぁ…なんか意味もなく威圧感があって…怖い。
ヒバリさんてその存在だけでも抑止力になってたんだな…。
変なコトに感心していると、タッタッタッと背後から誰かがオレに駆け寄ってきた。


「ツナ君、おはよ」

「きょ、京子ちゃん!お、おはよ」


「何か物々しいね」って不安そうに京子ちゃんは笑った。
朝から京子ちゃんに逢えたのは嬉しいけど、彼女を不安がらせてしまっているのは忍びない。
風紀委員が見張りを強化する原因を作っちゃったのには、オレも一枚噛んじゃってるし…。


「あ、あのさ、京子ちゃん。朝から変なコト聞くんだけど…」

「何?」

「えっと、京子ちゃんはさ、好きなヒトと離れ離れになるのはやっぱり辛い、よね?」


京子ちゃんは驚いたようにパチパチと瞬きした。


「いきなりの質問だね。何かあったの?」

「そ、そうだよね!何にもないよ。ごめん!忘れて!」

「あ、ううん!ちょっと驚いただけ。
 うーん、そうだね。やっぱり辛いかな。お兄ちゃんと離れるのは寂しいかも!」


お、お兄さんて…。
俺が聞きたかった『好きなヒト』の意味が違うよ、京子ちゃん。
彼女は思わず苦笑いしたオレに、


「勿論ツナ君やハルちゃんやみんなと離れるのも寂しいよ?」


と言って殺人的に可愛い笑顔を浮かべた。
天使だ…!オレの目の前に天使がいる…ッ
みんなと同列なのは哀しいが、寂しいと言ってくれただけでオレ幸せだよ…!


***


はぁ…やっぱり気が重いなぁ…。

朝の幸せ気分もどっかに飛んでいってしまった。
リボーンが帰って来るまでヒバリさんのことはずっと気がかりだったけど、どっかに飛ばされたヒバリさんを連れ戻すだけだって、オレ単純に考えてたからなぁ…。
まさかヒバリさんが飛ばされた先が異世界で、しかもそこで彼女作っちゃうとかさ…。

行動力あり過ぎですよ、ヒバリさん…。

オレにもそれくらい行動力があったら今頃は京子ちゃんと…って違う違う!
ここではない何処かで今も一緒にいるであろうヒバリさんとその彼女さんに思いを馳せて、オレは深々と溜め息を吐いた。


「はぁ〜…」

「大丈夫スか、10代目」

「あ、あぁ、ごめん。気を抜くとつい出ちゃってさ」

「やっぱヒバリのことか?」

「う、うん…」


昼休みの屋上。
いつものように獄寺君と山本と一緒に弁当食べて、余った時間をのんびり過ごしてたんだけど。
ちょっと時間があればオレはヒバリさんを連れ戻すかどうか悩んでいた。
獄寺君が眉を顰めて呟く。


「まさかあのヒバリが女作ってるとは、夢にも思わないスもんね…」

「う、うん…」

「だよな〜」


山本もちょっと困ったように笑った。
2人にも事情は説明してある。

本当に予想外過ぎる…。次の行動の予測がつかないっていうか、なんていうか。
まぁ大概ヒバリさんのコトだから「咬み殺す」ってトンファー振り回すけどさ。
うーんと唸って考えていた獄寺君が口を開いた。


「…10代目はヒバリに戻って来て欲しいんスか?」

「え?」

「自分勝手だし何かありゃ口より手が先に出るような野郎ですよ?
 10代目にはいつも逆らうし、協調性のないムカつく野郎じゃないッスか」

「でも強いのは確かだぜ。マフィアごっこ続けるなら味方にいてくれれば心強いじゃねーか」


山本…まだ『ごっこ』だと思ってる…。
確かにヒバリさんがいてくれて味方になってくれるなら助かるけど、そういうタイプでもないし。
元々ヒバリさんはこっちの世界の人間なんだから、戻って来た方が良いんだろうっていうのも分かるけど…。

あのヒバリさんが戦い以外でヒトに興味を持つなんて。

それは何よりもオレにとって衝撃的で。
群れるコトを嫌うヒバリさんが唯一傍に置ける人ってどんなヒトなんだろう。
ヒバリさんを理解して受け入れてくれるヒトなんて、そうそういるもんじゃない。
何より想い合っている恋人同士をマフィアの守護者とか、そんなモノの為に引き裂いていいんだろうか。
この機会を逃したら、ヒバリさんは一生ひとりかもしれない。
誰かが人間はひとりじゃ生きていけないって言ってたけど、オレもそう思う。
オレにはみんながいるけど、ヒバリさんには心を許せる人がいないんじゃないだろうか。
ヒバリさんにとって必要なのはオレ達じゃなくてその彼女さんだ。
それをオレはヒバリさんから奪おうとしている。

もしオレがヒバリさんでその彼女さんが京子ちゃんだったら…。

そう思ったら息が止まるほど、胸の奥の方が酷く痛んだ。
付き合った経験なんてないし、細かいところは良く分かんないけど、それでもそれは死んでしまいたいほど辛いコトだって思うんだ。
何よりオレは誰かの幸せを犠牲にして守られるなんて御免だ。
あーでもないこーでもないと言い合っている獄寺君と山本の会話にオレは割って入った。


「あ、あのさ。なんか上手く言えないんだけど、ヒバリさんのいない並盛って凄く変な感じしない?」

「まぁ…そうッスね」

「緊張感は足りないかもな」

「オレさ、怖いけどヒバリさんに帰って来て欲しいと思う。
 だけど…だけど、オレ……」

「ツナ?」

「10代目?」

「オレの為に2人の仲を裂くなんて…そんな酷いコト、出来ないよ…!
 だからオレはヒバリさんを連れ戻さない。…オレ間違ってるのかな?」


凄く情けない声が出た。
オレの言葉を聞くと2人は言い合いを止めた。
そして珍しく顔を見合わせ頷き合うと2人はオレの方に笑顔を向ける。


「10代目ならそう仰ると思ってました!」

「だな!ツナらしくていいと思うぜ!」

「2人とも……あ、ありがと」

「なーに!心配は要りませんよ、10代目!
 雲の守護者ひとり空席になったところで、オレがついてますって!」

「おいおい!『オレ達』だろ?」

「フン!おめーなんていてもいなくても変わんねーんだよ、この野球バカ!
 おめーは一生野球やってろ!」

「そりゃ野球は続けるけどさー。仲間ハズレは酷いんじゃね?」

「んだと?!」

「まぁまぁ!」


再び言い合いを始めた2人にオレは苦笑いを浮かべた。
本当はマフィアになんか係わりたくないし、この2人とも普通の友達でいたい。
だから、これはこれでマフィアから遠ざかる良いきっかけになるかも知れない。
家に帰ったらちゃんとリボーンに言おう。

オレはヒバリさんが幸せでいてくれる方が良いって。



a quirk of fate in 並盛3
〜ボンゴレ10代目の決断〜
2008.11.25



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