×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




「これ!とーってもデリシャスですよ〜!」

「あ、こっちも美味しかったよね!」

「はい!」


少し興奮気味の京子ちゃんとハルちゃんは、あたしの持つお皿にケーキをドンドン載せていく。
多くの種類が食べられるように、ケーキ自体は二三口くらいで食べ切れる大きさなのだけれど、何せ種類が豊富。
既にお皿の上のケーキの数は二桁に突入していたが、彼女達の手が止まる気配はない。
幸いお腹は空いているけれど、食べ切れるかどうか微妙なラインだ。
残すのは悪いし、あたしはやんわり彼女達を止める方向へ会話を向ける。


「ねぇ、そろそろ席に戻らない?」


しかしあたしの目論見は、ケーキ用トングを握り締めて振り返った、ハルちゃんのキラキラの瞳に呆気なく打ち砕かれた。


「昴琉さん!チョコレートはお好きですか?」

「え、えぇ」

「だったらこのガトーショコラは外せませんっ」

「ハルちゃん、この苺のムースも!」

「流石京子ちゃん!お目が高いですー!」


だ、駄目だわ…京子ちゃんまで瞳キラキラ。
ケーキを前にした二人は無敵過ぎる。
付け入る隙が全くない。
でもね、彼女達が興奮するのも分かるんだ。
だって本当にどれも美味しそうだし、小さなケーキなのにデコレーションも凝っていて、全部食べないと損した気分になりそう。

それにしたって、凄い数!

あたしは思わず自分の持つお皿をまじまじと見てしまった。
パスタに使いそうな大きめのお皿なのに、頑張ってスペースを確保してもそろそろ載らなくなってきた。
うーん…まぁ、雲雀くんにも食べるの手伝ってもらえばいっか。
断れないこともないけれど、満面の笑みでケーキを語り勧めてくれる彼女達の姿は、見ているだけで心を和ませてくれるし。
うん、そうよ!
たまにしか外出出来ないんだし、こういう女の子らしいイベントは大いに楽しまなくちゃ!
そんなことを考えていると、ハルちゃんが不思議そうにあたしの顔を覗き込んできた。


「昴琉さん!どうしたんですか?ボーッとして」

「え?あ、ごめんごめん!」

「あ、もうお皿いっぱいですね!そろそろテーブルに戻りましょうか」


そう言う京子ちゃんの持つお皿もケーキで埋め尽くされている。
勿論ハルちゃんのも。
未だかつてこんなに大量のケーキが載ったお皿を、あたしは見たことがない。
やだ、なんかツボ。


「…ぷっ」


堪えきれず小さく吹き出してしまったあたしに、理由の分からない二人はきょとんとしていた。


***


テーブルにケーキがいっぱい載ったお皿を持ち帰ると、一足先にリボーンくんとコーヒーを飲んでいた雲雀くんが目を見開いた。


「……それ全部食べる気かい?」

「…雲雀くんも手伝ってくれると助かります」


眉尻を下げて小さく笑いながらお願いすると、彼は喉の奥で笑いながら「了解」と答えてくれた。
多分ケーキを取りに行っていたあたし達を見ていたんだろうね。
きっと、断れないあたしの姿も。
普段だったら「要らない分は断ればいい」って突き放しそうなものなのに、すんなり了承してくれるとは…。
仲直りをした直後ということも手伝って、今の雲雀くんはかなり機嫌がいいようだ。

あ。すんなりと言えば、もうひとつ。

雲雀くんがケーキバイキングにくっついて来たのは意外だった。
群れることが大嫌いな彼のことだから、てっきり部屋で待ってるって言うと思ってたんだけど。
ケーキが食べたいから…ってことはないわね。
やっぱりリボーンくんがいるからなのかな。
雲雀くん、どうやら彼に一目置いてるみたいだし。
戦い好きの雲雀くんに一目置かれるくらいだから、リボーンくんって相当強いんだろうな…。
目の前にいるこの小さな赤ちゃんが、お花見の時の雲雀くんと了平くんみたいに戦う姿なんて想像出来ないんだけどね。

そういえばビアンキさんの姿が見えない。
何処に行ったんだろうかと視線を巡らせると、トレイに幾つかのカップとケーキを載せたビアンキさんが歩いてきた。


「紅茶取って来たわ。京子とハルは紅茶よね?」

「「はい!」」

「昴琉も紅茶で良かったかしら?」

「あ、はい。ありがとうございます、ビアンキさん」


お礼を言って紅茶を受け取ると、ビアンキさんは綺麗な微笑みを返してくれた。
ひゃー、綺麗過ぎてドギマギしちゃう。
丁度取りに行こうと思っていたところだったのよね。
きっとリボーンくんと雲雀くんのコーヒーを持ってきてくれたのも彼女だろう。
細かい気遣いまで出来るなんて、もう完璧じゃない?
―――彼女が恋のライバルじゃなくて本当に良かった。
あたしは密かに心の中で安堵の溜め息を漏らした。


一通り揃って、各々席に着く。
円卓だから全員の顔が見ることが出来て、会話するのに丁度いい。
席順は、あたしから時計回りに京子ちゃん、ハルちゃん、ビアンキさん、リボーンくん、そして雲雀くん。
でもすぐにビアンキさんが「食べさせてあげるわっ」ってリボーンくんを自分の膝の上に乗せた。
円卓には清潔感溢れる白のテーブルクロスが掛けられていて、その中心には丸い花瓶が置かれ、ピンクやオレンジ色のガーベラに、かすみ草や緑色が鮮やかな葉を合わせて生けてあった。
あたし達が持って来た大量のケーキも、テーブルの上を彩るのに一役買っている。
ケーキを食べ始めた途端会話の口火を切ったのは、何やらうずうずしている様子のハルちゃんだった。


「ビアンキさんとヒバリさん、今日は昴琉さんのウエディングドレス選びに来たんですよね?」

「えぇ、そうよ。因みにリボーンも幾つか見繕ってきてくれたのよ」

「どんなドレスなんですか?!ハルは興味津々ですっ」

「私も気になるなぁ」


ハルちゃん、京子ちゃん、よく訊いてくれた!
それはあたしも気になってたんだよね。
ちょっぴりワクワクしながら隣の雲雀くんを見る。
優雅な所作で一口コーヒーを飲んだ彼は、形の良い唇に意地悪な笑みを浮かべた。


「秘密だよ」

「ふふ、だそうよ」

「えー!もったいぶってズルいですー!」


ハルちゃんは頬を膨らませて抗議した。
やーん、可愛い!
けれど雲雀くんは涼しい顔で、ブラッドオレンジのショートケーキを口に運ぶ。
そんな二人の様子に、リボーンくんが口の端を上げてニッと笑った。


「まぁそう膨れるなハル。秘密にするも何も、振り出しに戻ったからな。
 昴琉と二人で一から決め直すつもりなんだろ?ヒバリ」

「あぁ」


雲雀くんは短く答えて、今度はガトーショコラにフォークを刺した。
あぁっそれさっきハルちゃんが勧めてくれたから食べたかったのに…!
恨めしい視線を雲雀くんに送るあたしの横で、京子ちゃんが胸の前で掌を合わせて感嘆の声を上げる。


「うわー、素敵!やっぱりドレス選んでたから教会式ですか?」

「そのつもりだったんだけどね…昴琉の白無垢姿も見たいから神前式でもいいかな」


そう言って唐突に雲雀くんはあたしをジッと見つめた。
な、何?
ガトーショコラを諦めて、丁度チーズケーキを頬張ろうとしていたところだったから、大口開けてて恥ずかしいんですけど…。
クスリと小さく笑った雲雀くんは、あたしの頬を長い指で愛おしげに撫でる。


「……貴女ならどちらも似合いそうだ」

「!!」


そのまま口付けでもしてきそうな熱い視線を向けられて、ブワッと恥ずかしさが込み上げ、あたしはフォークを落としそうになってしまった。
裏表がないのは良いことだけれど、雲雀くんはもう少し人前でのこういう行動、自重した方がいいと思うの…!
さっきだってビアンキさんにからかわれたばかりなのに…っ
―――いや、まぁ…う、嬉しいけど…。


「…あ、ありがと。でも、気障…っ」


照れ臭いので小さな声で呟いて、あたしは未だ真っ直ぐ自分を見つめる雲雀くんの口の中に、えい!とチーズケーキを押し込んだ。
京子ちゃんとハルちゃんは二人手を取り合って「いいねー」とニコニコ顔で羨ましがってくれ、ビアンキさんは「…やるわね、ヒバリ」と少し低い声で呟いた。
そして自分も負けていられないとばかりに、膝の上のリボーンくんに声を掛ける。


「ねぇ、リボーン!私達の結婚式はどっちがいいかしら?」

「昴琉はどっちがいいんだ?」


うわ、見事にスルーした。
普通の人なら軽く傷付くスルーっぷりだが、恋する乙女モードのビアンキさんは「リボーンたら恥ずかしがって…ふふ、そこがまた素敵よっ」と寧ろ嬉しそうにリボーンくんに頬擦りして、気にしている様子は全くない。
愛人関係ってこんなんだっけ?
もっと甘いものだと思ってたけど…ビアンキさんは兎も角、リボーンくんは結構ドライなようだ。
その辺は敢えてツッコまない方が良さそうなので、あたしはリボーンくんの質問に答えることにした。


「あたしは雲雀くんとならどっちでも…。
 ついさっきまで結婚式挙げられるなんて思ってもみなかったし…」


本当にそう。
言葉にしてみたって、まだ雲雀くんと式を挙げるなんて夢みたいで実感が湧かない。
隣で優しく微笑んでこちらを見ている年下の婚約者を見る。
お祭りの時も、お正月の時も思ったけれど、雲雀くん着物似合うんだよね。
紋付袴か……うん、神前式もアリかもしれない。


「あぁでも、やっぱり純白のウエディングドレスは憧れちゃうなぁ」

「分かります!女の子の憧れですもんね!
 昴琉さんなら清楚な感じのドレスが似合いそう」

「そうかしら?」

「うんうん!お綺麗ですし!
 あっでもハルは、レースいっぱいのゴージャスな感じも似合うと思いますっ」

「私はエンパイアドレスなんかもいいと思うわ」


こうなるともう女の子の独壇場。
リボーンくんと雲雀くんを置いてけぼりに、心弾む華やかなガールズトークは、窓から見える景色が夜景に変わるまで途切れることなく続いた。



endless sweet time 中編
2011.10.25



|list|