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※91話と92話の間、ホテルでのお話。

「雲雀くん、早く早く!」

「急がなくてもケーキは逃げないよ」

「んもう!そうじゃないわよ」


あたしはゆっくりとエレベーターを降りる雲雀くんの手を引っ張って急かし、ケーキバイキングをやっているビュッフェに移動する。
ビュッフェの入り口に着くと、上品な笑みを浮かべたウエイトレスさんに一礼され迎えられた。


「いらっしゃいませ。二名様でいらっしゃいますか?」

「あ、いえ。連れが先に来ていると思うんですけど…」


そう答えながら、先に来ているはずの京子ちゃん達の姿を探してビュッフェ内を見渡す。
するとリボーンくんを抱きかかえたビアンキさんが「こっちよ」と迎えに来てくれた。
背後で雲雀くんがウエイトレスさんに話しかけたのが気になったけれど、あたしはやって来たビアンキさんとリボーンくんに頭を下げた。


「すみません。遅くなってしまって」


実は二人と別れてから1時間も過ぎていたのだ。
それというのも甘えん坊スイッチの入った雲雀くんが、なかなか解放してくれなかったからなんだけど……そんなこと言えないし。
京子ちゃんとハルちゃんは、もっと待たせてしまったことになる。
だから慌ててビュッフェに来たのだ。
謝るあたしに、ビアンキさんは優しく微笑みを返す。


「ふふ、いいのよ。ちゃんと仲直り出来たみたいね」

「…はい」


照れながらこくりと頷くと、ビアンキさんはちょっと意味深な視線であたしを見た。


「何してたかなんて、野暮なことは訊かないわ」

「び、ビアンキさん…!」


一瞬にしてあたしの顔が熱を持つ。
リボーンくんまで彼女の腕の中でニッっと笑っていた。
お、思いっきりバレてる…!
慌てふためくあたしを見て、ビアンキさんは綺麗な長い髪を揺らしながらクスクスと笑う。


「冗談よ。さ、京子もハルもお待ちかねよ」

「あぁ、でも時間が…」


そう、時間。
ケーキバイキングには制限時間が付き物だ。
ここの制限時間は90分。
そろそろ京子ちゃん達が出なくてはいけない時間じゃないだろうか。
だったら他に場所を移してしまった方が良くないかな。
お腹はいっぱいかもしれないけれど、みんなには迷惑もかけちゃったからお詫びがしたいし、何よりこんな機会は滅多になさそうだから、こちらに友人の少ないあたしとしてはゆっくりお話がしたい。
あぁでも、そこまで求めちゃ我が侭かな。
また日を改めて誘った方がいいかしら?
そう思っていたら、ポンッと後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、ウエイトレスさんと話しているとばかり思っていた雲雀くんが立っていた。


「時間なら心配ないよ。支配人に話をつけたから、好きなだけいて構わない。
 今日はゆっくりしていけるんだろう?赤ん坊」

「あぁ。お前とするはずだった打ち合わせも流れたしな」


打ち合わせ…?
あぁ、リボーンくんに結婚式の相談してたんだもんね。
ビアンキさんと別れた後、リボーンくんと話すつもりだったのかしら。
珍しく雲雀くんがウエイトレスさんに話しかけてると思ったら、支配人さんに連絡取ってもらう為だったのね。
改めて並盛での陰の権力者っぷりを実感。

―――凄い子に好かれたもんだわ、あたし。

でもまぁ、雲雀くんのお陰で時間の心配をしなくていいのなら、このままここでお茶会でいいよね!
肩に置かれたままの雲雀くんの手に自分の手を重ねて、あたしは彼を仰いだ。


「ありがと、雲雀くん」

「貴女の為だからね。みんなとゆっくりしたいんでしょ?」

「…うん」


口に出さなくても、雲雀くんはいつもあたしの気持ちを察してくれて、こうしてさらりと嬉しいことを言ってくれる。
またこういう時の雲雀くんって、見つめられて蕩けそうなくらいすっごく優しい目をするんだよね。
今も彼に見つめられて、あたしの胸はきゅんと音を鳴らす。

あぁ…人前だし、ちょっと恥ずかしいな。

火照りの治まった顔がまた熱を帯びてしまった。
あたしと雲雀くんのやり取りを見ていたビアンキさんがまたクスクスと笑う。


「仲直り早々見せつけてくれるわね」

「えぇ?!い、いや、そんなんじゃ…!」


あたしは重ねたままだった手を慌てて離し、パタパタと手を振って否定した。


「ふふ、イチャつくのは後にして、先ずは京子とハルのところへ行きましょうか」

「び、ビアンキさん…!」

「本当に昴琉は可愛いわね」


このヒト絶対からかうの好きだ!
勿論祝福からくるものだって分かるけど、雲雀くん並みに手強そうな予感…。
でも歳も近そうだし、これを機に仲良くなれたらいいな。
そう思いながら雲雀くんと二人で彼女の後をついていく。
テーブルに近付くと、京子ちゃんとハルちゃんがちょっぴり気まずそうに立ち上がった。
二人は目配せをすると一緒に頭を下げる。


「「ごめんなさい!」」

「え?」


全く予想していなかった二人の謝罪に、あたしは面食らい目を瞬いた。
京子ちゃんとハルちゃんは顔を上げると、眉尻を下げて話し出した。


「私達、ヒバリさんとビアンキさんが昴琉さんに内緒で結婚式の計画を練ってるの知ってたのに、ラ・ナミモリーヌで会った時に言えなくて…」

「すっごく後悔してたんです。
 あの時はヒバリさんのサプライズがとっても素敵なことに思えて、言わないことに罪悪感はなかったんですけど…。
 自分がもし昴琉さんと同じ状況だったら、やっぱり不安で仕方ないだろうなって…」

「でもヒバリさんの昴琉さんを驚かせたいって気持ちも分かるし…そう思ったらどんどん言う機会を失っちゃって…」


京子ちゃんとハルちゃんは大きな瞳を潤ませて、「ごめんなさい」とまた頭を下げた。
…んもう、そんなこと少しも怒っていないのに。
第一ビアンキさんやリボーンくん達と違って、二人は直接雲雀くんの企みに係わっていない。
それでもあたしに隠し事をしていたと、優しいこの娘達は心を痛めてくれていたのだ。

―――あたしもよく雲雀くんにお人好しだって言われるけど、貴女達も相当だわ。

今日は会う人殆どに謝られている。
そう思うと何だかおかしいよね。
あたしは小さく微笑んで、ゆるゆると頭を振った。


「…謝らないで。こっちこそ変なことに巻き込んじゃってごめんね。
 内緒にされても納得の出来る事情だし、話を聞いて胸の閊えも取れたから、今は感謝の気持ちでいっぱいなの」

「昴琉さん…」

「だから、気を取り直してお茶会しましょ!
 実はバイキングの為にお昼控えてきたから、お腹ペコペコなんだよね。
 雲雀くんが融通してくれて、時間気にせずここにいられるんだけど…二人ともまだケーキイケる?」


憂いがなくなったせいか、はたまたもっとケーキが食べられると分かったからなのか。
あたしの言葉に二人の顔がパァッと明るくなる。


「勿論です!ケーキに関して、ハルの胃はブラックホールですから!」

「ふふっ私も!」

「良かった〜!じゃぁお勧め教えてくれる?」

「はい!」

「喜んで!」


ハルちゃんと京子ちゃんは嬉しそうに愛らしい笑顔を浮かべた。
そしてそれぞれあたしの手を取って、色取り取りのケーキが並ぶテーブルに引っ張り始める。
彼女達に誘われながら背後を振り返ると、柔らかい笑みを浮かべてビアンキさんとリボーンくんがこちらを見ていた。
そしてその隣で雲雀くんもまた、綺麗な漆黒の瞳を細めて穏やかに微笑んでいた。



endless sweet time 前編
2011.10.10
※フリー配布は終了しています。



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