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了平くんと戦う雲雀くんを見つめていたあたしに、ディーノさんはぽつりと呟いた。


「…本当に昴琉は恭弥を愛してるんだな」

「はい」

「はは、即答かよ!幸せ者だな、恭弥は。何か妬けるぜ」


ディーノさんは冷やかすように言って、お寿司に手を伸ばした。
あたしも照れながらお寿司を頂く事にする。
山本くんちのお寿司、凄く美味しい。
こちらに来てすぐに雲雀くんが用意してくれたお寿司と似てる。
もしかしたらあれ、山本くんちのお寿司だったのかも。

そ、それにしても…。

あたしはお寿司を美味しそうに頬張るディーノさんを見た。
口の周りにはご飯粒。
たまに口に入れようとしたお寿司を、器用に唇にぶつけて胡坐を掻いた膝の上に落としたり。
どうやったら一口で食べられるお寿司を、ここまで不器用に食べられるのか不思議なくらい。
同じ様に見ていた獄寺くんが嫌そうな顔をした。


「ケッ!相変わらずおめーは部下がいねーとへなちょこだな!」

「あ、あれ?おっかしーな…んぐっかはっゲホゲホ…!」

「だ、大丈夫ですか?」


あらら、今度はお酒に浮かんだ桜の花弁間違って飲んで咽ちゃった。
あまりに酷く咳き込むから心配になって摩ってあげようと彼の背中に手を伸ばした。
だけど触れる直前、その手を掴まれる。


「雲雀くん…!」


いつの間にか戻って来ていた雲雀くんは、咳き込むディーノさんをトンファーでぐぃっと押しやると、彼とあたしの隙間に無理矢理割り込んで座った。
そして不機嫌顔の彼に肩を抱き寄せられる。
わわっみんなの前で恥ずかしいよ…っ


「ゴホゴホッ何すんだよ恭弥!」

「フン」

「ヒバリィ!まだ勝負はついていないぞ!」


先程まで戦っていた了平くんが雲雀くんを追ってやって来た。
雲雀くんは未だ興奮冷めやらぬ彼に一瞥をくれると、深々と溜め息を吐いた。


「もう飽きた。それに今は君と遊んでる場合じゃないんだ」

「何だとぉぉぉっ」

「お、お兄さん!落ち着いて!」


ツナくんがアワアワと手を振って了平くんを宥めにかかる。
雲雀くんはやっぱり不機嫌そうにその様子を見ると、今度は獄寺くんと山本くんに視線を向ける。


「それから、そこ。もっと離れてよ。
 僕は群れるのも嫌いだけど、目の前で群れられるのも嫌いなんだ」

「んだと?!てめーだって、む、群れてんじゃねーかっ」


獄寺くんの指摘に雲雀くんはフンと鼻を鳴らした。
そして更にあたしを自分の方へ引き寄せ、きっぱりと言う。


「群れてるんじゃない。同化してるんだよ」

「な゛っ!同化って…!てめーの頭がどうかしてるんじゃねーのか」


た、確かに無理がある…。
っていうか獄寺くん、それ親父ギャグ入ってるよ。
獄寺くんの突っ込みを余所にあたしの顎を掬った雲雀くんは、横目で彼を挑発するように見た。


「顔が赤いね、獄寺隼人。…もしかしてこの間のこと思い出したのかい?」

「…ッ」

「僕達がもっと同化したところ…見せてあげようか」

「え、あ、ちょっと…!雲雀くん…!」


まさかまたみんなの前でキスする気?!
ゆっくりと近付いてくる彼の唇に、今度はあたしが平常心でいられなくなる。
抵抗しなきゃと思いつつ、綺麗な雲雀くんの瞳に見つめられて不覚にも胸が高鳴る。

…あぁ、この瞳からは…逃げられない。

獄寺くんも他のみんなも顔を赤くして息を呑む。
ところが唇が触れ合う寸前で、彼は動きを止め不敵な笑みを浮かべた。


「……期待した?」

「!!!」


それは獄寺くんに向けられた言葉だったが、一瞬身構えてしまったあたしとしては他人事ではなくて。
ドキッとしてしまった…。
見ていたみんなも緊張が解けてホッと息を吐く。
獄寺くんは唯でさえ赤い顔を更に真っ赤にして雲雀くんを睨みつける。


「す、するか!バーカッ!」

「ククッあんなサービス、もうしないよ。勿体無いからね」

「も、もう勘弁ならねぇ!今すぐ果てろ!」

「わわ!獄寺君、ダイナマイト仕舞って!」

「まぁまぁ、獄寺」


熱り立った獄寺くんをツナくんと山本くんが止めた。
雲雀くんはその光景を見て大仰に溜め息を吐く。


「…やっぱり群れるのは嫌いだ。昴琉、帰るよ」

「も、もう?」

「布団、干しっぱなしでしょ」

「あぁ、そっか!
 …それじゃ、また。京子ちゃんとハルちゃんによろしく伝えて?」

「あ、はい」


別れの挨拶を手短に済ませツナくんの返事を聞く余裕もなく、あたしは雲雀くんに引っ張られるようにその場を後にした。
お寿司食べるだけ食べて、はい、さようならって…悪いことしちゃったな。
それに京子ちゃんとハルちゃんに会えなかったのは残念。
連絡先知らないし、雲雀くんにお願いして今度ツナくん通してお茶誘ってもらおうかな。
そんなことを考えながら、彼に手を引かれるままついて行く。
そのまま帰るのかと思ったのに、雲雀くんは公園の出口手前でひょいっと桜の木が密集して生えている方へ進路を変えた。
木の根に足を取られないように注意しながら彼に話しかける。


「雲雀くん、どうしたの?」

「…群れた罰は受けてもらうよ」

「へ?ぁっ…んんっ」


桜の幹に押し付けられいきなり唇を奪われる。
初めから深いキス。
予期しなかった彼の行動に、あたしは驚き酸素を求めて喘いだ。
キスをしながら彼の手があたしの胸元を探り、シャツのボタンをひとつ、ふたつと外していく。
何とか顔を横に背けて、あたしは小さな抵抗を試みた。


「や、やだ…やめて雲雀くん。こんな所で…!」

「やめない」

「き、君が風紀を乱しちゃダメじゃない」

「……乱させたくなる貴女が悪い」

「そんな…!ぁっ…や…」


耳元で囁く雲雀くんの唇が首筋に移り、キスを落としながら露になった胸元の方へ徐々に下りていく。


「―――あぁっ」


鎖骨の少し下の辺りを突然強く吸われ、自分でも驚くほど艶っぽい声が出てしまって心臓が跳ねる。
雲雀くんは唇を胸元から離すとクスッと笑って、もう一度強く吸う。
彼の唇が触れた場所から甘い刺激が全身に走り、彼の黒髪が素肌に触れてゾクリとした感覚が背筋を襲う。
これ以上変な声が出ないよう、あたしは唇をきゅっと結んで手の甲を押し当て耐えた。
彼は何度か同じ行為を繰り返すとゆっくり唇を離した。
あたしを間近で見つめる熱を孕んだ漆黒の瞳にドクンと心臓が鳴る。
雲雀くんは自分が今まで唇を寄せていた場所を指でなぞって、柔らかく微笑んだ。


「…綺麗だよ、昴琉。桜の花が咲いたみたいだ」

「なっ!!」


自分で痕つけといて…何て恥ずかしい台詞を!
それでも綺麗だと言われたのが嬉しくて、顔が火照る。


「貴女は本当に綺麗だよ……そして可愛い」


そう言って雲雀くんはあたしの額に優しく唇で触れた。
…そんなこと言われたら怒るに怒れなくなるじゃない。
それに…雲雀くんの方が綺麗だし、カッコいい。
火照った顔を見られたくなくて彼の逞しい胸に顔を埋めると、ふわりと雲雀くんの腕が私を包み込んでくれた。
上からひらひらと舞い落ちる薄紅色の花弁がとても鮮やかで。
こんなにも美しい桜なのに、あたし達には哀しい思い出が付き纏う。
少し切ない気持ちになって彼の服をきゅっと握る。


「ねぇ、雲雀くん。来年も再来年も…ううん、毎年一緒にお花見しよう?」

「昴琉…?」

「みんなと一緒が嫌なら二人きりでもいいから、毎年お花見をして沢山思い出を作ろう?
 桜の季節が待ち遠しくなるくらい、沢山沢山楽しい思い出を……」


そうすればきっと、綺麗な薄紅色の桜の花弁があたしと雲雀くんの嫌な思い出を覆い隠してくれるから。
決してなかったことにはならないし忘れてはいけないことだけれど、そんなこともあったねと笑い合えるように。
いつか本当に心から桜が好きだと言えるその日まで、ずっと一緒に。


「あぁ…そうだね」


雲雀くんはあたしを抱く腕にゆっくり力を込めた。
そして頭上でクスリと笑う。


「毎年こうやって貴女に花を咲かせるのも悪くないしね」

「えぇ!そ、そっち?!」


悪戯っぽい笑みを浮かべた雲雀くんは、抱いていた腕を解き開けた胸元のボタンを閉め直してくれた。


「まぁ、僕は毎日でもいいんだけど」

「ひ、雲雀くん…!」

「……さぁ、帰ろう昴琉。僕達の家へ」


そう言って手を差し出す雲雀くんの笑顔が、あまりにも綺麗で。


―――――この笑顔と舞い散る桜の色を憶えていよう。


笑顔で彼の手を取って、こちらに来て初めての春をあたしは心に刻んだ。



2009.4.30


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