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- ナノ -

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ツナくんと山本くん、そしてディーノさんの他にお花見に来ていたのは、雲雀くんのお屋敷で会ったことのある獄寺くんと、京子ちゃんのお兄さん…了平くんだっけ。
京子ちゃんとハルちゃんは後から合流するのだとツナくんが教えてくれた。
こちらに来る前に斜め読みだったとはいえコミックスを読んでいるから、ここにいるメンバーは流石に憶えている。
だけど相手にしてみれば初対面だもんね。
不機嫌なままの雲雀くんを横目に、あたしは軽く自己紹介とお礼を述べた。
彼らもあたしをこちらに呼ぶ為に少なからず協力してくれたのだから。
深々と頭を下げるあたしに片手で頭を掻きながら山本くんが優しく声をかけてくれる。


「そういうの止めにしないッスか?
 オレ達が好きでしたことだし、昴琉さんが気にすることじゃないと思うんスよね」

「山本の言うとおりだ!極限に気にするな!
 そんなことより花見の席だ。
 酒でも酌み交わして過去の憂いを水に流し、友好を深めようではないか!」


了平くんはずぃっとあたしの前にカップ酒を突き出した。
コミックスで読んだままの彼の口調と元気な様子に、ちょっと気圧されながら受け取ろうと手を出すと横から雲雀くんにひょいっと奪われてしまった。


「何をするのだ、ヒバリ!」

「勝手に僕の昴琉に酒飲ませないでくれる」

「何だとぉ?!まさか貴様、オレの酒は飲ませられないと言うのではないだろうな?」

「君の酒じゃなくとも、僕と二人の時以外彼女に酒は飲ませない」

「えぇ!あたしそんな話聞いてないよ?」

「それはそうだよ。今言ったからね」


しれっと言う雲雀くんにこれも独占欲のなせる業かと呆気に取られたが、一概にそうも言えないと思い直す。
…だって、今までお酒絡みで雲雀くんにはちょいちょい迷惑を掛けているのを思い出してしまったから。
初めて逢った夜もあたし酔ってたし、お花見の時も寝ちゃって雲雀くんにマンションに連れて帰ってもらったんだった…。
反論出来ずに苦笑いを浮かべていたら、了平くんが突然「うおおおぉぉぉっ!!」と叫んだ。
び、ビックリした…!


「ヒバリィィィ!極限に男女平等の世の中で、関白宣言するつもりかぁぁぁぁぁっ」

「誰も関白宣言なんてしてない。ただ彼女には飲ませないと言ったんだ」

「それが関白宣言だと言うのだ!酒くらい、いいではないか!」

「何も知らないくせに余計な口出ししないでくれる」

「何だとぉぉぉ!オレは今極限にプンスカだぞッ」

「まぁまぁ、先輩押えて。ヒバリも落ち着けって」


見るに見かねて山本くんが間に入ったが了平くんの腹の虫は治まらないようで、スクッとその場に立ち上がると胸の前で拳を打ち鳴らした。


「ええぃ!埒が明かんっ
 こうなったら男同士、極限に拳を交えてハッキリさせようではないかっ!」

「望むところさ」


不敵に笑った雲雀くんも立ち上がって仕込みトンファーを構えた。
しっかり靴を履いた二人は間合いを取りながら、あたし達から少し離れた場所に移動し本当に戦い始めた。
ちょっと本当に戦い始めちゃったよ…!
二人を止めようと腰を浮かせたが、ディーノさんに腕を掴まれ止められる。


「やらせとけよ、昴琉」

「で、でも…」

「二人とも血の気が多いからな。ああやって発散させとけばいい。
 下手に首突っ込んでとばっちり受けるだけ損だろ?オレ達は先に始めてよーぜ」


「な?」とお茶目にウィンクされてしまっては、引き下がらないわけにもいかず。
まぁ、ディーノさんは雲雀くんの家庭教師だし、彼がそう言うのだから放っておいてもいいのかも。
迷いながらも再び元の場所に腰を落ち着けると、ディーノさんは近くにあった烏龍茶を投げて寄越した。
おっとっと…!
それを慌ててキャッチすると、彼はニッと笑った。


「それじゃ乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」


ディーノさんの音頭でみんなで乾杯。
ツナくんと獄寺くんはジュース。
山本くんは牛乳。
烏龍茶を飲んでいると、山本くんは「うちの寿司もジャンジャン食って下さいよ!」と勧めてくれた。
その隣で獄寺くんは視線を彷徨わせ、手にしていたジュースを意味もなくぐるぐる回していた。
そういえば先程から彼は一言も喋っていない。
心なしか顔が赤いような…不思議に思っていると横からツナくんがやっぱり顔を赤らめながら訊いてきた。


「あ、あの…ヒバリさんの屋敷で会った後、大丈夫でしたか?」

「え?…あ、あぁ!」


彼に言われてどうして獄寺くんが先程から喋らず気まずそうにしていたのかが分かった。
そう、ヤキモチを焼いた雲雀くんに彼らの前でキスされて連れ去られて以来、獄寺くんには初めて会うんだった。
恥ずかしい事件を思い出しこっちまで顔が火照る。


「ちょっと怒られちゃったけど、平気。
 …っていうか、へ、変なモノ見せちゃってごめんね」

「うっ…いや、その…」

「べ、別にあんたが悪いんじゃねーし…」


ツナくんと獄寺くんとあたしの三人で顔を赤くしてワタワタしていると、あの現場に居なかった山本くんとディーノさんは首を傾げた。
わ、話題変えなきゃ…!
訊きたいことはあるんだけど、訊いていいのかな…でも気になるし。
それに訊くなら雲雀くんが傍に居ない今がチャンスだ。
あたしは合流した時から気になっていた疑問を口にしてみた。


「ツナくん、骸くんは今どうしてるの?
 以前夢の中で会った骸くんは何処かに捕まっているみたいだったけど…」

「え!あ、えっと…骸は、まだ…その…」

「あいつはまだ牢獄の中さ」


言い淀んだツナくんの代わりに、カップ酒を一口呷ったディーノさんが答えた。
やっぱりそうなんだ…。
だからクロームの身体を借りてあたしに会いに来たのね。
骸くんがまだあの暗く冷たい牢獄に繋がれたままだという事実は、雲雀くんと幸せに過ごしていたあたしの心に小さからぬ波紋を広げた。
彼がいなければあたしはこちらに来ることは出来なかった。
それなのにあたしだけが幸せに暮らしていいのだろうか?
表情を曇らせたあたしの肩をディーノさんがぽんぽんと叩いた。


「さっきの山本の台詞じゃないが、昴琉が気にすることじゃない。
 六道骸があんたにどう接していたかは知らないが、あいつには過去の罪を償う義務がある。
 牢獄に繋がれていることとあんたの件は無関係だ。同情する必要はないぜ」


最後の一言はあたしだけじゃなくて、同じ様に表情を曇らせていたツナくんにも向けられたものだった。
きっとあたし以上に心を痛めているんだ…ツナくん優しいから。
どう答えていいのか迷ったけれど、「はい」と頷くとディーノさんは急におどけてみせるように笑って話題を変えた。


「それにしても、ハハッ!さっきの恭弥の顔ったらなかったな!
 あいつが照れて顔を赤くするなんて初めて見たぜ」

「…そう、なんですか?」

「あぁ。オレに見せるのは大抵ムスッとした不機嫌顔か、戦闘が絡んだ時の不敵な笑みだからな」

「あはは、何だか想像つきます」


周りの三人も各々複雑な表情を浮かべながら、うんうんと頷いている。
雲雀くんは出逢った頃は本当に生意気な中学生で。
あたしに対しては徐々に心を開いて柔らかい表情を見せるようになったけれど、他の人には結構キツい態度を取る。
特にこちらに来てからは雲雀くんが他の人と話しているのを目にする機会が増えたから、余計にそう感じていたのだけれど。

成長しても群れるのを嫌う天邪鬼は健在、か…。

思わず苦笑するとディーノさんはちょっと真顔になって雲雀くんの方に視線をやる。


「あいつもあんな顔するんだと思ったら、正直ちょっとホッとした。
 ……恭弥もやっぱ人間なんだな」

「ディーノさん…それさり気なく酷いです」

「ハハッわりぃわりぃ!お、見ろよ!花弁入ったぜ。
 風流だなぁ。これぞ日本の花見って感じだな」


丁度頭上からひらひらと舞い落ちてきた桜が手元のお酒に浮かぶのを見つめる視線は温かく。
雲雀くんの家庭教師という立場からか、一個人としてなのか。
ディーノさんは群れるのを嫌う雲雀くんと適度な距離を保ちつつ、見守ってくれていたんだ。

桜の花弁が舞い散る中、未だ了平くんと戦っている雲雀くんに目を向ける。


雲雀くん、君は幸せ者だね。


草壁くんやディーノさんやツナくん…他にも沢山こちらの世界には君を思ってくれる人達がいる。
それを自ら望んで手に入れることはとても難しい。
少なくとも両親を失い養女にもらわれるまでの自分には困難だった。

だから…あの時の自分の決断は間違っていなかったと、少し自信を持ってもいいかな?


―――――そしてそんな君に愛されるあたしもまた幸せなのだと。



2009.4.21


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