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71


ベランダで布団を干しながら空を見上げると、透き通るような青空とキラキラ光る太陽に目を奪われる。
はぁ〜凄くいい天気!
そうだ。今日は雲雀くんもお休みだって言っていたから、散歩に付き合ってもらおうかな。
買い物もなるべく寄り道をしないでいるから、まだこの町の地理にも疎い。
彼が一緒なら迷わないし、普段通らない道を歩くのも探検するみたいで楽しそうだ。
布団を運ぶのを手伝ってくれていた雲雀くんにそれを提案すると、気乗りしないようで生返事をされた。
疲れているのかな…でも彼がお休みの時くらいしか探索出来ないし…。
何故か外出を渋る雲雀くんを説得して、午後から散歩に出掛けることにした。


***


ぽかぽか陽気に心も浮かれ、雲雀くんと並んで住宅街の中を歩いていると、道路の脇に薄紅色の花弁をちらほら見かけた。
…もうそんな季節なんだ。
そう思って不意に覗いた道の向こうに沢山の桜の花が見えた。


「わぁ、凄い…!」

「待って、昴琉そっちは…!」


桜に向かって走り出したあたしを雲雀くんが心持ち焦ったように呼び止めた。
ん、何だろ。
雲雀くんが焦った声を出すなんて珍しい。
気になったけどあたしはもっと近くで見たくて、彼の制止を気にせず桜の木の下まで来てしまった。

桜は公園に植えられたものだった。

公園を取り囲むように植えられた桜は丁度見頃を迎えていた。
その下では夜の為にか所々にレジャーシートが敷かれて場所取りがされていたり、平日の昼間の今も既にお花見を始めている人達がちらほら。
こんなにいいお花見スポットがあるなら、ぽかぽか陽気だしお弁当でも作って雲雀くんとお花見すれば良かったなぁ。
次の彼の休みには散ってしまうかしら…。
公園の入り口で桜の花を見上げていると、「昴琉さん?」と声をかけられた。
声の主を探すとそこにはツナくんが立っていた。


「わ、ツナくん!こんにちは」

「こんにちは!ヒバリさんも、こんにちは」

「……やぁ」


ツナくんはいつの間にかあたしの背後に立っていた雲雀くんにも律儀に挨拶をした。
挨拶された方の雲雀くんは少し歯切れ悪く返事をする。
愛想ないなぁ、もう。
ツナくんはちょっと苦笑いしてあたしに視線を戻した。


「大事な用事はもう済んだんですか?」

「用事…?何のこと?」

「あ、あれ?もしかしてヒバリさんから聞いてませんでしたか?
 オレ達今日花見するんで、良かったらお二人も一緒にどうですかって誘ったんですけど…。
 そしたらヒバリさん、大事な用事があるから来られないって…」

「……雲雀くん?」


ちょっと咎めるように名を呼んで後ろを振り返ると、彼は素早くそっぽを向いて知らん顔をした。
―――この子は全く…!
だから外に出るのを嫌がったのね。
どうせまた群れさせたくないとか考えて、あたしには内緒にしてたってところか。
ホント、独占欲強いんだから…。
彼の幼稚な行動に思わず溜め息を漏らしていると、ツナくんがちょっと躊躇いながら口を開いた。


「あの、良かったらみんなもいるし、今からでも一緒に花見しませんか?」

「僕に群れろって言うのかい?」

「あ、いや、えっと、その」

「雲雀くん、そんなに睨まなくても…」

「……」

「まぁまぁヒバリ!そんな怖い顔しねーでちょっと寄ってけよ」


そう言ってツナくんの後ろから現れたのは、爽やかな笑顔が眩しい長身の青年だ。
見覚えのある顔に、あちらで読んだコミックスの記憶を辿る。
えっと…確かツナくんのお友達の、山本くんだっけ?
野球が好きで、実家がお寿司屋さんだったような……。
彼は人懐っこい笑顔を浮かべてあたしに「ちわ!」と片手を挙げて挨拶すると、雲雀くんの睨みもまるで気にせずまたニッと笑った。


「みんなで花見するんだって言ったら、うちの親父が沢山寿司握ってくれてさ。
 このままじゃ余っちまいそうだし食ってかね?」


彼の一言に雲雀くんの身体がピクッと動いた。
そして不機嫌顔をそのままに口を開く。


「……かんぱちとヒラメのえんがわ、ある?」

「おう、あるぜ!」

「そう……少しなら呼ばれてあげてもいいよ」

「よし。じゃ、花見参加決定な!」

「あくまで少しだけだよ」


そう言って雲雀くんは道案内を買って出た山本くんの後を追った。
横を通る瞬間、彼の口元が弧を描いていたのをあたしは見逃さなかった。
雲雀くん…前々から思ってたけど食べ物に弱いね。
ていうか独占欲より食欲優先?!
ぽかんと彼を見送るあたしに、ツナくんは眉尻を下げて微笑んだ。


「ヒバリさん、お寿司好きなんですね」

「…特にかんぱちとヒラメのえんがわがね」

「へぇ、ヒバリさん意外と好み渋いんだな…」

「あら、それってあたしのこと?」


冗談めかしてそう訊くと、ツナくんは両手を前に突き出してアワアワしながら振った。


「へ?!そ、そんなんじゃ…!あくまでお寿司の話で…!」

「あはは、分かってるって!冗談よ、冗談」


にっこり笑うとツナくんはホッとしたように大きく息を吐いた。
そして眉尻を下げて笑うと「オレ達も行きましょう」と歩き出した。


***


前を行く山本くんと雲雀くんについて公園の奥に進むと、大きな桜の木の下に辿り着く。
するとその下には大きなレジャーシートが敷いてあり、そこに談笑している三人の青年がいた。
その中に一際目立つ金髪の青年を見つけ、あたしは思わず「あ!」と声を上げてしまった。


「ディーノさん!」

「よぉ!昴琉に恭弥じゃねーか。大事な用はもういいのか?」


先程ツナくんにされたのと同じ質問に、思わずツナくんと顔を見合わせてしまった。
雲雀くんはムッとしたようだけど、やっぱり知らん顔。
不思議そうにこちらを見つめるディーノさんに、敢えて訂正せずに用事は済んだと告げた。
雲雀くんの可愛い独占欲は隠しておいてあげよう。
そう思ったのに。
雲雀くんはシートの上に座っている彼を見下ろし、ムスッとしたまま自ら小さな独占欲を露呈した。


「跳ね馬。気安く昴琉の名前呼ばないでよ」

「へ?」

「それから。君もだよ、沢田綱吉」

「お、オレですか?!」


雲雀くんに睨まれたツナくんは、突然自分に矛先が向いてあたふたした。


「さん付けでも名前で呼ぶのは禁止」


雲雀くん…怖い顔して凄んでるけど、内容がそれに合ってないよ。
「ひっごめんなさい!」とツナくんは謝ったが、ディーノさんはニッと笑った。
それを雲雀くんが見逃すはずがない。
笑われたことが気に入らなかった彼はディーノさんを睨んだ。


「何がおかしいの?」

「いや、だってよ。昴琉と恭弥は結婚すんだろ?」


ディーノさんはあたしの左手を指差した。
わ、目聡い。
彼の言わんとする事は大体想像がつく。
けれど彼の言っている意図が分からない雲雀くんは、益々眉間の皺を深くした。


「だったら何。言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだい?」

「だーかーら!結婚したら昴琉も苗字が『雲雀』になるだろ?
 『雲雀』が二人じゃ区別つかねーじゃん」

「!!」


そこまで言われてやっと気が付いた雲雀くんは、ハッとした表情で固まった。
そして口元に軽く握った手を当てて、少し考えるポーズを取る。
チラリとあたしを盗み見た後、視線をディーノさんに戻し口を開いた。


「…そう、だね」

「だろ?遅かれ早かれ、結局名前呼ぶことになるんだからさ」

「……けど、やっぱり不愉快だ。第一貴方は「はぃ、そこまで」」


あたしは納得し切らず不毛な会話を続けようとした彼の言葉を止めた。
不満気な視線を寄越した彼に「耳を貸して?」と手招きすると、雲雀くんは少し身体を傾けてくれた。
あたしはちょっと背伸びをして、手を添えて口元を隠し彼の耳に囁く。


「要はあたし達の関係は公認ってことでしょ?それならヤキモキするだけ無駄よ。
 ―――それに誰に名前を呼ばれたって、あたしがドキドキするのは雲雀くんだけよ」
 

囁かれた言葉に雲雀くんは見る見るうちに頬を染めた。
彼から離れて、あたしはにっこり笑ってみせる。


「折角のお花見なんだから機嫌直して?」

「…分かったよ。折角の寿司が不味くなるしね」

「そうそう。お寿司は鮮度が大事よね」


急にお寿司の話をし出した雲雀くんに思わず笑みが零れる。
だって、照れ隠しなのバレバレなんだもん。
あたしだって恥ずかしいけど、彼のそんな様子が可笑しくて。
クスクス笑っていると「笑い過ぎだよ」と睨まれてしまった。
そこへタイミングを見計らっていたのだろう、ツナくんが声をかけてくれる。


「さ、どうぞ。上がって寛いで下さい」

「ありがと、ツナくん」

「……」


あたしはお礼を言って、雲雀くんは無言でお花見の輪に加わった。



2009.4.12


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