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04


見知らぬ男の子の面倒を見る気になったのは何でだろう?
厄介事なんて抱え込みたくないのが普通だよね。
何故かこの時のあたしは雲雀くんを放っておけなかった。


***


窓から差し込む陽射しがぽかぽかして気持ちいい。
今日二杯目のコーヒーをマグカップに注ぎ、陽の光に誘われるまま窓を開けてベランダに出た。
土曜の朝のせいかまだ外は静かで、まったりとした休日独特の雰囲気に包まれている。

急遽同居人になった雲雀恭弥くんは、今あたしのベッドで眠っている。
折角寝たのに起こしちゃ可哀想だから、彼が起きてから掃除機をかけようか。
あ、でも雲雀くんの日用品とか服とか必要な物買いに行かなきゃ。
いつまでも元彼の服着せとくのも忍びないしね。
うーん、後で買い物誘ってみよっかな。
勝手に買って来ちゃってもいいかもしれないけど、色々拘りありそうな感じだからなぁ。

ふと雲雀くんの小生意気な笑みを思い出した。

自称中学生の雲雀くんは姿も声も振舞いも大人っぽくて、義務教育中だなんて思えない雰囲気を纏ってる。

あたしなんかよりも色白の肌。
それによく映える黒髪。

ちょっと目付きはキツイけど、正直カッコいいと思う。
不意にお風呂上りの彼を思い出して、あたしの頬は一気に赤くなった。
恥ずかしさを払うように頭をブンブン振る。
何だかなぁ!もう!
そうだ、洗濯しよう、洗濯!


***


洗濯も終えて、テレビでも観ようとリビングのソファに腰掛ける。
テーブルの上に置きっ放しのあげる当てのなくなったバレンタインチョコが視界に入った。
結構有名なブランドのチョコで一粒300円以上するそれは、程好い甘さで口溶けも良くてあたしのお気に入りの一品。
後で食べようと思っていたけど、目の前にあるそれは既に包みが解かれていた。

ま、まさか!

ガバッと箱を掴んで蓋を開けると、案の定中身は空っぽ。
やっぱり…。
どう考えても食べたのは雲雀くんしかいない。
適当にあるもの食べていいって言ったけどさ…一個くらい残しておいてよ、もう!

……でも、雲雀くんが食べてくれて良かったかも。

確かに自分の好きなチョコだし食べようと思ってたけど、やっぱりアイツにあげようと思って買ったのを自分で食べるのって嫌な気分だよね。
もし昨夜雲雀くんに出逢わなかったら、今頃あたしはまだ布団の中でめそめそしていたに違いない。

不思議。

3年も付き合った彼に酷い振られ方したっていうのに、こんなに穏やかな気持ちでいられるなんて。
これも生意気な雲雀くんのお陰かな。
彼の行動はちょっとあたしにとって予想外で、いい意味で振り回してくれる。
口元が緩んでいるのに気が付いて、慌てて口に手を当てた。
そんな自分が可笑しくて、もっと口が弧を描いていく。
傍に人がいる喜びをほんのちょっと噛み締める。
もし神様がいるのなら感謝したい。

あのタイミングで雲雀くんに逢わせてくれたことを。


なんてちょっぴり幸せに浸っていたら、寝室の方から微かに声が聞こえてきた。
もう、起きたのかな?
あたしは立ち上がって寝室の前に移動して、そっとドアを開けた。
カーテンを閉めている為に部屋は薄暗い。
足音を立てないようにゆっくり声の主に近付くと、苦しそうな息遣いと呻き声を漏らしながら、雲雀くんがベッドに横たわっていた。
具合が悪いのかはたまた夢見が悪いのか、その額にはうっすら汗まで浮かんでいる。

魘されてる…?
起こした方がいいのかな…。

迷いながら雲雀くんの顔を覗き込んで、汗で額に張り付いた前髪を払おうと彼の髪に手を伸ばした。

その瞬間、伸ばしていた手を掴まれ強く引かれる。
あたしは反射的に逆の腕を突っ張って、何とか雲雀くんを押し潰すのを避けたが、そのせいで雲雀くんに覆い被さる体勢になってしまった。
首に冷たい感触。


「ひ、雲雀くん…?!どうし…!!」


言いかけた言葉を飲み込む。
あたしの下の雲雀くんは、酷く怖い表情をしていた。
その眼光は鋭くて、こうして視線を合わせているだけで心臓が止まってしまいそう。
こ、怖い…っ
僅かな時間、お互いの時間が止まったように見つめ合う。


「昴琉か…」

「…雲雀くん。手、痛い」

「あ、あぁ。ごめん」


雲雀くんはあたしを解放すると、上半身を起こして額に手を当てて溜め息を吐いた。
掴まれていた部分を摩る。
結構な力で掴まれていたようで手がじんじんする。
彼の片手には銀色に鈍く光る金属の棒が握られていた。
首の冷たい感触は、どうやら昨夜彼が見せてくれた持ち物のひとつ、トンファーだったようだ。
…どっから出したのよ……。
怖い気持ちも少しあるが、声が震えそうになるのを抑えて話しかけた。


「大丈夫?魘されてたみたいだけど…」

「ん…汗かいて気持ち悪い」

「シャワー浴びてさっぱりしてくる?」

「うん。そうだね」


雲雀くんはちょっと気だるそうにベッドから脱け出すと、バスルームへ歩き出した。


「あ、待って!着替え着替え!」


慌ててクローゼットから着替えを引っ張り出して、寝室を出て行こうとする雲雀くんに差し出す。
渡しながらさっき考えていた買い物の提案をしてみた。


「あのさ、いつ戻れるか分からないけど、こっちで生活するのに色々必要でしょ?
 お昼ご飯食べたら一緒に買い物に行かない?
 雲雀くんの趣味とか分からないし、一緒に来てくれると助かるんだけど…」

「別に構わないよ。それにいい判断だよ、昴琉。僕にも一応拘りがあるからね。」


ちょっと小生意気な笑みを浮かべながら答えた雲雀くんには、さっきまで感じた身の竦む怖さはもう感じなかった。
彼はクルッと向きを変えてバスルームに行ってしまった。
魘されていたのは気になるけれど、急な環境の変化のせいかもしれないし、本人に訊ねてもはぐらかされそうだし、あまり深く考えても仕方ない気もする。
取り敢えずいつもの彼に戻ったみたいだし、良しとしよう!
そう納得して、あたしはお昼ご飯の準備に取り掛かることにした。



2008.3.16


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