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買い物に向かう車の中で、雲雀くんはこちらのことを色々教えてくれた。

あ、ちなみに運転してるのは雲雀くん。
ついクセで運転席側に回ったら、彼に「僕が運転するから」と些か強く言われ助手席に押し込められた。
まぁ、よくよく考えれば確かに道知らないし、雲雀くんに任せた方がいいよね。

でもちょっと不思議な感じ。

今までだったらあたしが雲雀くんを助手席に乗せて運転してたのに。
以前よりも大人びた彼が運転する姿に、少し見惚れてしまったのは内緒。
言ったら絶対からかい出すし。
でも…ほんのちょっと可愛い我が子が自分の手を離れてしまったような、そんな気持ちになる。
…っていうかちゃんと免許取ったのかしら。

で、脱線した話を戻すけど、普通に生活する分には同じ日本だし、あちらの世界もこちらの世界も殆ど変わりないんだって。
言葉の壁がないだけでも助かる。
金銭面も心配はなさそうだし…ってお金のことを真っ先に気にするなんて、あたしってば浅ましい…。
いや、でも生活出来なきゃ困るもんね。
さっきもチラッと言っていたけど、雲雀くんが風紀財団の委員長であることとか、さっきまでいた場所がその財団の研究施設のひとつだってことなんかも教えてくれた。
あたしをこちらに呼ぶ為にしていた研究内容とかも。
正直専門用語がいっぱいでよく分からなかったんだけど、凄く大変だったっていうのは分かった。
それに雲雀くんの財団だけじゃなく、マフィアの皆様が係わっているっていうから驚きだ。
しかも聞けばかなりの人数。

主に開発に取り組んでいたのは『10年バズーカ』有するボヴィーノファミリーと『死ぬ気弾』を有するボンゴレファミリー。

このふたつのファミリーの協力無くしては、あたしをこちらに呼ぶのはほぼ不可能だったらしい。
勿論開発して出来た銃をあたしの世界まで運べる骸くんの力も必要不可欠だったわけで。


「な、何だか申し訳ないね…あたしひとりの為に…」

「いいんだよ。どれだけ尽力して貰ったって足りないくらいだ。
 元はといえば彼らの勝手な言い分で僕はこちらに戻されたんだからね。
 それに技術提供の交換条件で、僕もボンゴレの守護者として協力することを約束させられたし。
 ……全く、不公平な取引だよ」


その時のことを思い出したのか、雲雀くんは少しムスッとした。
…意外。自分のしたいことしかしないってあんなに言っていたのに。
特に骸くんに協力を仰ぐのは、死ぬほど嫌だったんじゃないだろうか。
そんなにあたしをこちらに呼びたいと思ってくれてたのかな…。
嬉しいけど申し訳なくて複雑な気持ちになる。
だって、直接雲雀くんをこちらに送り帰したのはあたしなんだから。

そういえばボンゴレってあの小さな男の子がボスを務めるマフィアの名前だったよね…。
一応雲雀くんも係わりのあるマフィア。
……こっちの世界でも雲雀くんの周りには裏社会がついて回るのね。
あ、もしかしてさっき会ったあの人も係わっているのかな。


「ねぇ、雲雀くん。ディーノさんもその研究に係わってたの?」

「…!ディーノ、だって?」


ハンドルを握る彼の手がピクリと動く。
ディーノさんの名前を聞いた途端に、雲雀くんの纏う雰囲気が一変した。
次に発した彼の声はとても低く、押えているけど怒りが滲んでいる。
な、何でちょっと怒ってるの…?


「…どうして昴琉があの人の名前を知っているの」

「どうしてって…さっき庭園で雲雀くん待ってた時に彼に声をかけられただけだよ」

「…勝手に施設内を歩き回るなって言っているのに…全くあの人は…。
 昴琉、彼に何か言われた?」

「んー、特には。あ、今度雲雀くんも一緒にご飯食べましょうって」


それを聞いた雲雀くんは不機嫌そうに「これだからイタリアの男は…」と呟いて舌打ちをした。

…え、まさか。雲雀くんディーノさんに妬いてるなんてことないよね?

こっちでもイタリアの男の人ってそういうイメージなの?
まぁ、ディーノさんかっこいいしモテそうだけど、ちょっと声かけられてくらいで勘違いするほどあたし子供じゃないし。
何よりあたしは雲雀くん以外のヒトなんて考えられない。
うーん、自分の知らないうちに話をしていたのが気に入らない…とか?
不機嫌そうな視線を前に向けたまま、少々棘のある口調で彼はあたしを窘め始めた。


「大体貴女も貴女だ。勝手に部屋から出るし。
 昴琉、あんな男にホイホイついて行ったら咬み殺すよ」

「ホイホイって…ついて行かないわよ」

「どうかな」

「……雲雀くんのヤキモチ焼き」


疑う彼の言葉にちょっとムカッとして小さく悪態をついた瞬間、タイヤが悲鳴を上げて車が急停止した。
慣性の法則で前に進もうとする身体がシートベルトに胸を押さえつけられてウッとなる。
雲雀くんは素早くギアを入れ替えると、エンジンを唸らせ今度は勢い良くバックしてまた急停車した。

な、何?!

ビックリして外を見ると周囲には何台も車が停まっていた。
話している内に何処かの駐車場に着いたらしい。
それにしたって乱暴な運転に文句のひとつでも言ってやろうと運転席の方に向いたが、こちらを見ている雲雀くんの鋭い視線に息を呑む。
徐にシートベルトを外した彼は、こちらに身を乗り出してきてあたしの身体ごと助手席のシートを倒した。
予期していなかった動きと衝撃にあたしの心臓はキュッと縮んだ。


「ちょ、ちょっと!ひば…んんっ」


言葉の途中で彼に口付けられて遮られる。
こんな所でキスなんて…!
だ、誰か来て見られたらどうするのよ…っ
彼の胸を押して抵抗するけど、押さえ込まれて逃れられない。
乱暴なそれに徐々に呼吸が乱される。
抵抗を止めてあたしが大人しくなったのを見計らって、雲雀くんはそっと唇を離した。


「…ヤキモチくらい焼かせてよ。
 この5年間、焼きたくたって焼けなかったんだから」


涙目になって荒く息を吐くあたしにそう言って、彼は切なそうに微笑んだ。
う…きゅんとしちゃったじゃない。
怒っているのかと思わせておいて、それは卑怯よ雲雀くん。

…可愛いなぁ、もう。

でもちょっとお仕置き。
ヤキモチ焼いてくれるのは嬉しいけど、あれくらいのことで一々焼かれてたら堪らない。
あたしは綺麗な彼の両頬を思い切り引っ張った。


「…いひゃぃよ」

「そんなにヤキモチ焼きたいなら好きなだけ焼きなさい。
 その代わり、君がヤキモチ焼く度に君の柔らかほっぺをこうやって引っ張るからねっ」


思いっ切り引っ張って離すと雲雀くんはちょっと痛そうに顔を顰めた。
そんな顔もまたカッコ良かったりするから困る。
雲雀くんは少しムッとしてたけど、急に不敵な笑いを浮かべた。


「いいよ。それだけで済むなら安い代償だ」


え、えぇ!引いてくれないの?!
再び近付いた彼の唇を慌てて手で止め、懲りない彼にあたしは苦笑いを浮かべた。
ここでまたキスされたんじゃ、何時まで経っても車から降りられない気がするもの。


「買い物、するんでしょ?」

「後でも出来る。昴琉、手邪魔」

「き、キスだって後で出来るでしょ?」

「今したい」

「誰かに見られたらどうするのよっ」

「別に。気にしなければいい」

「ほっほー、ヤキモチ焼きの雲雀くんは、あたしがキスしてる顔を他人に見られてもいいのね?」

「……それは、嫌だ」


少し彼の声のトーンが下がる。
お、これは効果あったかな?
仕方がないと言わんばかりに大仰に溜め息を吐くと、雲雀くんは事もあろうに彼の口を押えていたあたしの掌をぺろりと舐めた。


「ひゃっ」


濡れた生温かい感触に驚いて手を引っ込めると、雲雀くんはその隙を突いて素早くあたしにキスをした。
やられた…!
再び深く口付けられて、整ったばかりの呼吸が乱される。
…結局初めのキスより長く翻弄される破目になってしまった。


「今はこれで許してあげる。
 でも僕に我慢させるんだ。帰ったら……憶えておきなよ」


意地悪な笑みを浮かべた彼はあたしに覆い被さっていた身体を退けると、顔を真っ赤にしたあたしの腕を引っ張って起こした。

な、何か先が思い遣られるんですけど…。

これから送るであろう雲雀くんとの生活に思いを馳せて、あたしは大きな溜め息を吐いた。



2008.12.18


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