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- ナノ -

02


…ふわふわする。

宙に浮いてるみたいな感覚が心地好い。
次に訪れたのは背中に柔らかな感触と、ふわりと身体の上に何かが覆いかぶさる暖かい感触。

それはあらゆる負の感情を我慢していた心に沁みて。


夢の中であたしは号泣した。


***


重たい瞼をゆっくり開けると、そこには見慣れた天井があった。
あれ…?いつベッドに入ったっけ…?
上半身だけ起こすとガンガンと頭に鈍痛が走り、思わず頭を抱えて蹲る。
うぅ、そっか。
昨日あたし自棄酒呑んだんだった…。
頭の痛みと一緒に振られたことまで思い出して、あたしは大きく息を吐いた。
服は昨日と同じままだけど、シャツの胸元のボタンが二つ開いていた。

その時ガチャリとドアが開いて、見知らぬ男がひょっこり顔を覗かせた。


「ヒッ!!だ、誰?!」

「変な声出さないでよ。自分で連れ込んでおいて忘れるなんて酷いヒトだね。
 起きたんなら僕に着られそうな服貸してよ」


…そうだ。思い出した。
雲雀恭弥くんだっけ…?
あまりに面倒になって、昨日泊まっていいって言っちゃったんだ。
我ながら大胆且つ無警戒な行動に、二日酔いで痛む頭が更に痛くなってきた。
いくら振られて自暴自棄気味でも、男、まして未成年を泊めるなんて…!
ヤバイよ…警察に捕まっちゃうよ。
ムッと顔を顰めている彼にあたしは慌てて抗議した。


「つ、連れ込むって…!一晩の宿を提供したのに、人聞きの悪いこと言わないで。
 第一なんで風呂上りなのよっ、少年!」

「貴女が好きにしていいって言ったんじゃないか。
 それより早く服出してよ。湯冷めするでしょ」


バスタオルを腰に巻いて頭からタオルを被った雲雀くんは、いけしゃあしゃあと言い放った。
な、何という俺様なの…。
好きな物食べていいとは言った気がするけど、勝手にお風呂入っていいとは言ってないわよっ、多分。

…兎も角。あの格好は見てるこっちが恥ずかしい。

仕方なしにあたしは頭痛と身体のだるさを我慢してベッドから脱け出した。
クローゼットにアイツの置いていった服やら下着やらが入っている。
えーっと…あ、これでいっか。
あたしはジーンズとTシャツとネルシャツ、それから新品のトランクスを取り出した。
いくらなんでも他人が使ってた下着は嫌だろう。
特に思春期の男の子は。

着替えを渡そうと部屋を出るとキッチンの方から音がした。
向かってみれば、さっきの姿のままの雲雀くんが、冷蔵庫から牛乳を出して飲んでいるところだった。
うわ、この子直に飲んでるよ!
それは瓶じゃないよ?1リットルの紙パックだよ?
呆れながら彼の前に洋服を差し出す。


「はい、着替えこれでいい?」

「ふぅん、よく男物があったね。…あぁ、寝言で呼んでた男の服か」

「ぇ?!」

「図星?」


意地悪そうな笑みを浮かべてそんなこと訊くな…!
寝言を聞かれていたことにもビックリだけど、アイツを呼んでいたことにもビックリだわ…。
チクッと胸の奥が痛むけど、それを無視して彼に着替えの服を押し付けた。


「少年には関係ないでしょっ。ほら!とっとと着替えてよ」

「僕に命令しないでよ。それから少年って呼ぶの止めてよね」

「あー、はいはい」

「……貴女もシャワー浴びた方がいいよ。酷い顔してる」

「な゛っ!!」


思わず両手で顔を覆うとくつくつと雲雀くんが笑った。
自分の顔に血が集まるのが分かる。
く、くっそー…!中学生のクセに大人をからかってくれちゃって!
生意気っ!!!
自分の顔を隠してるから見えないが、恐らく笑っているであろう雲雀くんを残して、あたしはバスルームに駆け込んだ。

洗面台の鏡に映るあたしの顔は、なるほど確かに酷い顔だ。
夢の中で泣いていたんだと思ってたけど、現実のあたしも泣いていたらしい。
目は充血して瞼も腫れて、涙の痕が残る顔は浮腫んでいる。
今日、会社休みで助かった。
バレンタインの翌日にこんな顔じゃ振られたのバレバレだもんね…。
…あれ?何で雲雀くんはあたしの寝言を聞いていたの…?


もしかして彼があたしをベッドまで運んでくれたから…?
しかも寝苦しくないようにシャツのボタンも開けてくれた…?


ちょっと嫌なヤツかと思ったけど、結構いい子なのかも。
シャワー浴びたら朝食作ってあげるかな。
下降気味だったあたしの心は雲雀くんのお陰で上向き始めていた。



2008.2.25


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