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33


今日の日程は午前中に全員で小樽にある水族館見学。
その後昼食を食べ終わったら、午後は各自小樽を自由散策という予定。
夕食も好きなところで食べて、20時までに小樽市内のホテルに直接集合。
勿論一緒に遥も来ると思っていたのに、何故か彼女は主任の手伝いをするからと行ってしまった。
各自自由行動なんだから、手伝いも無いと思うんだけど…。
まぁ、いいか。
雲雀くんはあたしと二人で行動出来るせいか、今日は機嫌が良さそうだし。
人が多い水族館でもイルカショーなんか見て楽しそうにしてた。
昨日は見ててハラハラする程機嫌悪かったからね。
遥だとあんまり怒らないけど、そんなにあたしが他の人と話してるの見るの嫌なのかなぁ。
でもちょっとヤキモチ焼いてくれる雲雀くんを可愛いと思ってしまったり。


昨夜忍ぶように布団の中で彼の手に触れた。


あの時の雲雀くんの驚いた顔ったら。
油断、してた?
その後すぐにあたしは眠ってしまったけど、君は眠れたのかな?
悔しいけど毎晩君がベッドに潜り込んで来るせいで、雲雀くんの温もりに慣れさせられてしまったみたい。
実はちょっとスカスカして、淋しかったんだよね。
こんなこと本人に言ったら調子に乗るから言わないけど。
君が傍にいるのが当たり前になってしまった事が、少しだけ怖い。

おっと、ナーバスになってる場合じゃない。
取り敢えず何処に行くか決めないとね!
隣に立っている雲雀くんを見上げて訊いてみる。


「少しブラブラお散歩する?」

「貴女の行きたい所に連れて行ってよ」

「え、でもモロに観光コースだよ?」

「構わないよ。今日の僕は機嫌がいいんだ」

「じゃぁ、お言葉に甘えて…えっと、ここ行きたいな」


観光マップを指差すと、雲雀くんは幾分楽しそうにしながら歩き出した。


***


てくてく歩いてやってきたのは小樽では有名な硝子を取り扱うお店。
一歩中に入るとどこもかしこも硝子だらけで、キラキラして眩しい。
あたしも女性の例に漏れず、綺麗なモノ好きでこういう所を見て回るのが好き。
雲雀くんも「へぇ、綺麗だね」なんてグラスを見てる。
硝子の綺麗さを引き立てる為の照明が、雲雀くんの綺麗な漆黒の瞳に映って、とても綺麗。
一瞬雲雀くんの瞳が硝子で出来ているんじゃないかと思って、ドキリとしてしまった。
あれ…?良く見ると雲雀くんの瞳って、真っ黒じゃない?
光の加減かな…虹彩が青味がかった灰色に見えた。

―――不思議な色。日本人だと無い色だよね…。

今更だけど彼がこちらの世界の人間ではないと、再確認させられたようで、胸の奥がチクリと痛んだ。
こちらを向いた雲雀くんはあたしを見て、怪訝な顔をした。


「何見てるの。どうかした?」

「う、ううん。どれも綺麗で、ちょっと圧倒されてただけ」

「…そう」

「そうだ!折角だから記念にお揃いのグラスでも買おうか?
 雲雀くんは何か気に入ったのある?」


折角雲雀くんの機嫌がいいのに、変な心配はさせたくなかった。
すぐに気持ちを切り替えて雲雀くんに笑いかける。
一瞬彼は眉を顰めたけど、「……これは?」とコバルトブルーのグラスを手に取った。
それはとても綺麗な切子グラスだった。
大きさも手頃で何にでも使えそう。
一目で気に入ったあたしはそれを二つ買った。
携帯と違って、色も同じ。
割らないように大事に使おう。

色々な硝子製品を見ているうちに段々喉が渇いてきたから、お店に併設してあるカフェに足を運んだ。
そこは明治時代の石造りの倉庫をカフェに改装したものだった。
光源は高い天井から吊るされた沢山のランプの光。
各テーブルにもランプが置いてあり、アンティークな雰囲気が漂う店内をよく演出していた。
ミルクティーとシュークリームを二つずつ頼む。

雲雀くんってやっぱり大人っぽいよね。
落ち着いてるっていうか……。
彼はこの落ち着いたどこかロマンチックで異国情緒溢れる空間に妙に溶け込んでいた。
本当にこの子はあたしより年下なんだろうか…。
周りのテーブルに座っている女の子達もチラチラ雲雀くんを見てる。
こういう空間って凄く好きなんだけど、どこかあたしは浮いてしまう気がして、そわそわする。
目の前で足を組んでテーブルに頬杖をついて座っている雲雀くんがカッコよくて、見惚れてしまう。
自分の目に映る今の映像は、現実なのだろうか。
もしかしたらあたしは長い夢を見ているんじゃないだろうか。

君と逢ってからずっと……目が覚めれば忘れてしまいそうな儚い夢を。

不意にテーブルの上で組んでいた手を雲雀くんに握られた。
ハッとして彼を見るとまた怪訝そうな顔をしている。
ボーッとしているあたしを心配してくれたみたい。
彼は少し力を込めてあたしの手を握って、ゆっくり口を開いた。


「昴琉、僕はここにいるよ」


その言葉に心臓が飛び跳ねる。
やっぱり君は読心術でも使えるの?
「うん」と笑顔で返せば、ホッとしたように彼は息を吐いた。
そしていつもの小生意気な笑顔を浮かべる。


「僕と一緒にいるのに、他に意識飛ばさないでよ」

「ご、ごめん」

「謝って済めば風紀委員会いらないんだよね」

「何でそこで風紀委員会が出てくるのよ」

「さっきも気が付いてなかったみたいだけど、僕を『雲雀くん』って呼んだし。
 貴女にはそれ相応のお仕置きが必要だね」

「え、嘘!でもそれも風紀委員会関係ないじゃん…それにお仕置きって…。
 あたし子供じゃないんだけど」


何やらお仕置きについて楽しそうに考えている彼の顔は、正しく悪戯っ子そのもの。
その表情に悪寒が走る。
何されるのか非常に怖いんですけど……。
その時ミルクティーとシュークリームをウエイトレスが運んで来た。
やんわりと雲雀くんに握られていた手を外す。
ちょっと不満そうな顔をしたけど、素直に手を引っ込めてくれた。
第一食べ難いもんね。
しかし、目の前に置かれたシュークリームの大きさに少々驚く。
だってね、ティーカップの三倍くらいの大きさがあるのよ?
でも凄く美味しくてあっという間に食べちゃったけどね。勿論ミルクティーも美味しくて。
やっぱり北海道だけに乳製品が格別に美味しかった。
何より大好きな人と一緒に美味しいもの食べられるって幸せだよね?



2008.7.23


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