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20


ずるずるとその場にしゃがみ込むと、自然と溜め息が漏れる。
つ、疲れた…。
しなれないことすると変に緊張して疲れる。

大して休む間も無くドアの向こうから「いいよ」と彼の声がする。
さて、可愛い雲雀くんの為にもうひと頑張りしますか!
よっこいしょと口から出そうになるのを堪え、立ち上がって中に入る。
彼は既にバスルームに移動していて、腰にタオルを巻いただけの姿でこちらに背を向け椅子に座って待っていた。

思わず赤面してしまった。

女のあたしが言うのも変かもしれないけど、本当に雲雀くんって綺麗なんだよね。
あたしなんかより肌白くて、細くて。羨ましいなぁ。
固まっていると促すように「昴琉」と名前を呼ばれる。


「早く洗ってよ」

「う、うん。お湯かけるから、目瞑っててね?」


気を取り直してシャワーを手に取り、蛇口を捻ってお湯を出す。
手でお湯加減を確かめてから雲雀くんの髪を濡らし、シャンプーをつけて泡立てる。
わしゃわしゃとマッサージするように頭を洗ってやる。
「気持ちいい?」と訊くと彼は「うん」と素直に答えた。
泡だらけの頭を見ていたら、ムクムクと悪戯心が湧いてしまった。
全体的に下から上に向けて髪を持ち上げる。
毛先をひとつに纏めるようにすれば……完成!


「……何してるの、昴琉」

「い、いやぁ、○ューピーちゃん…やってみたくなって…」


いつもよりも一際低い声におどおどしながら答える。
お、怒った?
雲雀くんは「ふぅん」と呟くといきなり頭を振った。

うわ!泡飛んできた!

彼はそんなことは意に介さない様子で蛇口を捻ってシャワーを頭からかぶり泡を洗い流した。
勿論位置的に彼のすぐ後ろにいたあたしにもシャワーがかかる。
急いで立ち上がったけど頭からお湯を浴びて濡れてしまった。

こ、このっ!

文句を言ってやろうと思った瞬間、雲雀くんに両手首を掴まれバスルームの壁に追いやられ押し付けられてしまった。


「ちょ、ちょっと…!」

「よくも僕の髪で遊んでくれたね」

「ほ、ほんの出来心だってば。謝るから、ね?」

「そんな格好で謝っても、僕を煽るだけだよ」

「へ?」

「Tシャツ濡れて、透けてるんだよね」


言われて再び胸元を見ると、彼の言うとおり濡れたTシャツが張り付きブラジャーが透けて見えていた。
さっきのシャワーはこれ狙いですか?!

また見られた…っ

恥ずかしさに顔が朱に染まり、一気に鼓動が加速する。
艶っぽさの中に、加虐的な色を含んだ雲雀くんの鋭い視線に耐えられなくて口を開く。


「お、大人をからかうのもいい加減に…んんっ」


言葉の途中で雲雀くんに口を塞がれて、遮られた。
啄ばむようなそれに徐々に身体の力が抜ける。
深く求められて身体が火照り、漏れる吐息が羞恥心を煽る。
暫くして惜しむように唇を離された時には、あたしは自分で立っているのもやっとの状態だった。


「大人とか子供とか、そんなの関係ないでしょ。その前に僕は男で貴女は女なんだから。
 それに、随分気持ち良さそうな顔してるよ?
 悪戯に対する罰なのに、貴女が気持ち良くなっちゃ意味ないな」


あれだけヒトを翻弄しておいて涼しい顔の雲雀くんは、見せ付けるように自分の唇をぺろりと舐めた。
どうしてそんなに余裕なのよ…憎たらしいなぁ…!
多分髪で遊んだことはあんまり怒ってない。
あたしをからかいたかっただけよ、きっと。
本当に意地悪なんだからっ。


「…もう気が済んだでしょ。離してよ……雲雀くん?」

「……緊急事態だよ、昴琉」

「な、何よ」

「タオル落ちた」

「……ええぇぇぇ!や、やだ!」


あたしは思わず反射的に目をぎゅっと瞑った。
だ、だって、タオルが落ちたってことは、雲雀くん今ぜぜぜぜぜ全裸じゃん!
閉じた目の前で雲雀くんがクスッと笑う気配がした。
タオルを拾う為に彼があたしの手を離した隙に、サッとバスルームから逃げ出した。

だ、大丈夫。見てない。

濡れたまま出てきちゃったけどそんなの気にしてる場合じゃない!
寝室に駆け込み、ドキドキと煩い心臓を落ち着けながら濡れた服を着替えた。
色んな意味で散々だわ…本当に疲れた……。

リビングに行ってソファに腰を下ろして一息つくと、雲雀くんがお風呂から上がって戻ってきた。
その手にはドライヤー。


「僕の裸見たんだから、髪乾かして」

「み、見てないわよ!断じてっ」

「……昴琉になら僕は見られても構わなかったのに」


彼は後ろから抱きついて、耳元で低く囁いた。
折角落ち着いた心臓が早鐘を打ち出す。

あぁ、もう…!恥ずかしい…!

いつもいつも年下の彼にいい様に振り回される。
恥ずかしさを誤魔化す為に、あたしは少々乱暴に雲雀くんの手からドライヤーを奪った。


「ほら、乾かしてあげるから。コード届かないから床に座って」

「照れてるの?顔真っ赤だよ」

「うるさいっ早く座らないと乾かしてあげないわよ?」


コンセントにプラグを差し込みドライヤーのスイッチを入れると、彼はあたしの前にストンと腰を下ろした。
髪に温風を当てると、気持ち良さそうに雲雀くんは目を閉じる。
なんか、美容師というよりもトリマーの気持ちになってきた。
だってさ人間相手だったらこんなに苦労しない気がするんだよね。

短いだけあってすぐに乾いた黒髪のふわふわな感触が気持ちいい。
「乾いたよ」と声をかけると、雲雀くんはくるっとこちらを向いて抱きついてきた。
位置的に膝をついて座っていたあたしの胸に顔を埋める形になる。
な、何?


「これからも貴女が髪切ってよね」

「冗談よしてよ。結構大変なんだから」

「貴女がいいんだ。昴琉以外に触れられたくない」

「……我が侭だなぁ、君は」

「その代わり僕も貴女の髪切ってあげるから」

「……これからも切ってあげるから、それは勘弁して…」


髪を手で梳きながら渋々彼の申し出を承諾する。
「勿論シャンプーとブロー付きね」と嬉しそうに擦り寄ってくる雲雀くんの可愛さには完敗。
こういうところはやっぱりお子様なんだよね。

カッコいいのに可愛いとか、もうあり得ないわ。

いくらでも我が侭に付き合ってあげようじゃないのと思ってしまうのは、惚れた弱みかしらね。
未だ抱きついて離れない雲雀くんの頭をよしよしと撫でながら、次の散髪までにヘアカタログ買って来ようとあたしは密かに思っていた。



2008.5.27


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