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17


あっという間にゴールデンウィークも終わってしまって、夢のようなぐ〜たら生活から元のお仕事生活が始まった。
雲雀くんがいたお陰で、体内時計が狂うほど酷く乱れた生活をしていたわけじゃないけど、やっぱり10日も休めば会社に行くのは億劫になる。
数日経過してもやっぱり休みが恋しくて、そりゃ仕事中に溜め息も出るってものよね。
まして朝から雲雀くんとの攻防戦を繰り広げてきたのだ。

そう。あれ以来彼は寝る時は自分の部屋に行くのに、朝起きるとあたしの布団にちゃっかり潜り込んでいるのです。
鍵は壊されちゃったし、内側からドアの前に障害物を置いても、翌朝起きればしっかり抱き込まれて一緒に寝ている。
潜り込まれても気が付かないで寝ているあたしの神経の図太さにもビックリだけど、あれは絶対気配を消している。
普段でも横にいたと思っていたのに、いつの間にか背後にいたりして驚かされるもん。
一体どういう環境で育ったら、あんな身のこなしが出来るようになるのやら。

今日何度目かも知れぬ溜め息を吐いてコーヒーを口に運んでいると、隣で仕事をしていた遥が椅子ごとこちらに移動してきた。


「すっごい溜め息の量ね…。素敵な黒猫ちゃんと上手くいってないの?」

「んぐっ!ぶはっゲホ、ゲホ、ゲホッ!」

「わ、きったない!」

「あ、あんたが、ケッホ!変なこと言うからでしょ…ケホッ」

「だってさ〜、あの子カッコよかったじゃない。従兄弟だって、年下だっていいじゃん!
 昴琉だって今フリーなんだし、勿体無いよ〜」

「…他人事だと思って簡単に言ってくれるわねぇ。色々複雑なのよ。色々ね…」

「ふーん。じゃぁこれあげるから、黒猫くんと親睦を深めてらっしゃいよ。
 モタモタしてると誰かに取られちゃうわよ?」


手渡されたのは回転寿司屋の半額券。
何でこんなもの持ってるのよ、遥…。

遥に嘘を吐くのは心苦しいけど、やっぱり本当のことは言えなかった。
いつかきっと話せる時が来ると思うから。
それまでは、ごめん。


***


元彼との一件の後も、変わらず雲雀くんは駅まで迎えに来てくれた。
いつも彼は改札から一番遠い柱に寄りかかって待っている。
今日も同じ場所にいる彼を見つけ駆け寄ろうとしたけど、一緒に制服を着た女の子がいるのに気が付いた。
あたしは反射的に自販機の陰に隠れる。
…な、何やってるんだろ、あたし。

でも何か、このままあの場所に行くのは気が引ける。

探偵よろしくこっそり覗き見ると頬をピンクに染めた女子高生が何やら一生懸命な様子で、腕を組んで壁に寄りかかったまま、にこりともしない雲雀くんに話しかけている。
そのうちスクールバックから青い封筒を取り出して、雲雀くんの目の前にずぃっと突き出した。
彼が受け取ると逃げるように階段の方に走っていって、友達だろうか、そこにいた三人の女子高生達ときゃーきゃー騒ぎながら去っていた。

おぉー。これはどう見ても典型的な『好きです!ラブレター受け取って下さい!』の場面ではないですか。
唯でさえ雲雀くん目立つのに、いつも同じ時間に同じ所に立っているからなぁ。
話したことないけど、一目惚れってヤツ?
初々しいね〜。
手紙を受け取った雲雀くんはつまらなそうに表、裏、表、裏とくるくるそれを反転させながら見ている。
それ仕舞ってくれないと出て行きにくいんだけどなぁ。
どうしよう。うーんうーんうーん。


「何覗き見してるの。趣味悪いよ」

「ひゃ!い、いつの間に!!」


本当に君は何者ですか…!
さっきまであっちにいたのに、雲雀くんは今あたしの目の前に立っていた。
彼の手に握られたままの青い封筒にチラリと視線を走らせ、気まずさからぽりぽり頬を人差し指でかく。


「だってさ、出て行き難かったんだもの。それ、ラブレターでしょ?」

「…僕には分からないな。
 話したこともない人間に、好きだと言って手紙を渡す気持ちは」


興味なさそうに呟いて、雲雀くんは近くにあったゴミ箱に手紙を捨てようとした。
ちょ、ちょっと!
慌てて雲雀くんの手を掴まえて止める。


「だ、ダメだよ!開けもしないで捨てるなんて!」

「どうして?」

「どうしてって…あの子真剣にこの手紙書いて、勇気出して雲雀くんに手渡したんだよ?」

「だから何。僕は、あんなけたたましくて煩い女子に興味ない。群れてたし。嫌い」

「は、ハッキリ言うのね…。
 でも真剣な気持ちを踏み躙るような行為は良くないよ」

「…分からないな。どうしてそんなに手紙を読ませたいの?
 僕がこの手紙を読もうが読むまいが、貴女を好きな気持ちは変わらないのに。
 それでも読めって言うの?」
 

さらっと胸がきゅんとすること言うな…!
あたしを殺す気ですか。
僕は貴女しか見ていませんって言ってるようなものだぞ、それ。
そんな風に言われたら、嬉しくて、顔が緩んじゃう。
いやいやいや、違う違う!しっかりしろ、あたし!


「それでも。読んであげて。
 その手紙を雲雀くんが読んでどう思うかなんて、読んでみなくちゃ分からないじゃない。
 後は断るのも想いを受け取るのも、雲雀くんの自由。
 ちゃんと相手に答えを返さなきゃダメ。恋愛だって立派な戦いなのよ?」

「戦い…」

「そう、戦いよ!ラブレターを読まないで捨てるなんて、敵前逃亡と一緒だわ」

「じゃぁこの手紙は果たし状ってことかい?
 それなら受けて立つより他ないね。僕は売られた喧嘩は全て受けて立つよ」

「け、喧嘩とは違うと思うけどね…。くれぐれもトンファーで殴っちゃダメよ…」


は、話が若干ずれてる気もするけど、彼が手紙を捨てずに上着のポケットに仕舞ったから良しとしよう。
しっかし、手紙を渡したあの子も、こんなに乙女心が分からないヤツだと思ってないだろうなぁ。
それなのに無駄にカッコいいから、性質が悪い。
いつの間にか無意識にマンションの方へ歩き出していて、ハッとする。
そうだ、今ので忘れてた。


「あのさ、今日友達からお寿司屋さんの半額券貰ったんだけど、折角だから食べに行かない?」

「行く」


おお、即答。お寿司も好きなんだ、雲雀くん。
心なしか嬉しそう。
最近よく食べ物で釣られてるの、自覚してるかなぁ?



2008.5.23


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