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ヘイルダールは、戦場に戻ると真っ先に目的の人物がいるであろう陣地へと突っ込んでいった。
どうせ他の地では他のメンバーが戦闘を進めている。(クロネコは「白は全部ぶっ潰してくる」と物騒なことも呟いていた。)ただじゃ死なないような面々ばかりであるので、そちらは全て任せて、こっちは勝手にやることにした。

上をちらりと見ると、黒い大きな影が爆風と共に近づいている。その姿ににやりと笑みを浮かべると、近場にいた白の兵士たちを片っ端から氷の魔法で沈めていった。なるべく死なないように、そして敢えて逃げられるくらいの傷をつけて。

やがて兵士が周囲に居なくなると、土煙から目的の人物であろう影が見えてきた。ヘイルダールは、片手を握りしめると、小さくつぶやいてその影めがけて氷の魔法を打ち付けた。

「はっ!」

影はすかさず氷を避け、一歩下がる。土煙が完全に引いてくるころには、その全貌が見えるようになっていた。

「流石と言うべきか。策を練るだけではないのだな……リオ。」
「ホント懲りないわね……しつこい男は嫌われるわよ?」

リオはヘイルダールの姿を認めると、呆れるような、嫌悪を感じるような複雑な表情をした。

「随分嫌な顔をするのだな。自ら会いに来てやったんだ、お礼位して欲しいものだが。」
「貴方みたいな男、お断りよ。」

じりじりと、ヘイルダールに詰め寄られた距離をリオも逃げるように少しずつ離していく。

「それで、どうしたいわけ?用が無くて顔を見に来ただけ、とか馬鹿馬鹿しい理由じゃないんでしょうね。」
「そうだな、それでも良かったんだが……気が変わった。今日こそお前を手に入れて見せる。」

すかさず二回目の氷撃がリオを襲う。一歩下がったものの、顔面付近に現れた氷の粒は避けきれず、顔の横をかすめていった。血のにじむ頬を、手の甲でぐいっと拭き、リオは更に嫌そうな顔を向けた。

「貴方って本当に」

そう言いかけたところで、突如目の前で爆発が起こる。やったのはリオでも、ヘイルダールでもなさそうだ。ヘイルダールも向う側で咳き込む声が聞こえる。

「何だ……この爆発は、ああまたか。」
「一体何事なのよ……」
「おねーさん、逃げて!」

煙で良く見えないが、二つの影のどちらかが逃げろと叫んでいるようだ。敵か味方かはよく判別できないが、今の状況を切り抜けることは出来そうである。リオはとりあえず、知らぬ少女の言葉を信じて走り出すことにした。遠くでヘイルダールが爆発の原因であろうその人物を怒鳴る声が聞こえる。

「お前は……なんでいつも俺の邪魔をする!」

珍しく怒りを露わにしたヘイルダールに物怖じすることなく、爆発の原因である少女は二撃目の爆弾をボールのように片手で投げて遊びながらつぶやいた。

「だってさ、ヘイルダールさん変態なんだもん。」
「爆弾娘だけには言われたくないわ!……そして今度こそ死ね!」

リオに向けた時よりも、強力な一撃が少女ーアニエラを襲う。その瞬間、目の前に繞が立ちふさがり、氷の一撃は弾き返された。

「アニエラ、逃げよう。」
「う、うん。ヘイルダールさんまたねー!」
「待て……っ!」

ヘイルダールは追いかけようとしたが、アニエラの爆弾により再び動くことを阻止されてしまった。しかも今回は痺れ効果のおまけ付きである。

「あいつ……」

びりびりと、感覚を失っていく全身を何とか気力で引きずり、ヘイルダールはその場を去った。


そして戦地は、再び束の間の静寂に包まれたのである。




end

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