(「遠い距離」続編/瑠菜さまリク)






近い距離





同棲を始めました。



今まで寂しい思いをさせてきた分を取り返すように、今までの時間を埋めるように、毎日を大切に過ごしている。


離れていた時間を経験しているせいか、空がそこに居るということが新鮮で、すごくありがたく感じる。

一度「別れる」と言われたせいか、空の存在が当たりまえじゃないような気がする。



どれもこれも、辛さを超えた所で見つけた大切なものだ。



そんならしくもない事を、珍しく頭を働かせて考えているうちに、家に着こうとしている。


練習を終えて、体が軋んだ音を鳴らすけど、そんなことはあんまり気にならない。


夕方過ぎ、薄暗くなりはじめた空を背に、鍵を開けた。



「おかえりなさい!」



そう。これがたまらない。

ぱたぱたと足音をたてて、小走りで駆け寄る空。
嬉しそうな表情がほんと、可愛い。


「ただいま。」



こんな些細な挨拶が、どうしようもなく照れて、大切で、嬉しくて。


尻尾がはえていたら、きっとぶんぶんと千切れんばかりに振っているのだろうな。
あれ?なんか尻尾見えてきた。


オレの挨拶の返事に、照れたようにはにかむ空。
あぁもう、可愛いすぎる!



犬に接するように、少し乱暴に頭を撫でて、空の柔らかい栗色を乱す。



「ははっ、髪ぐしゃぐしゃ。」



そう言って笑ってやると空は「もー」と言いつつも、嬉しげに笑いながら髪を整えている。



靴を脱いで上がり、より一層空に近付いた。


なんとなく愛しくなって、空の肩を捕まえて、前髪に降れるだけのキスをしてみた。



そしてそのまま自分の額と彼女のそれを当てて目を合わす。

頬が少しだけ赤く染まっている空は、驚いた顔をしていた。



「あー、空が居る。」


自分でもよく分からない言葉が口を突いて出た。


そんな言葉に空は笑ったから、まあいいか。
オレもつられて笑った。



「うん、邦広も居る。」



こんな至近距離で、恥ずかしいカップルだとは思うけど、
近すぎてなんかもう、恥ずかしくもない。



俺は空の生温い頬の両側を両手で包んで、今度は唇に口付けた。



唇を離して空を見ると、なんとも幸せそうな表情を浮かべるもんだから、オレの口元はだらしなく緩んだ。



「うへへ、これが噂のタダイマのチューとゆうやつですか。」



オレに負けじとだらしなく笑う空はわざとらしくふざけて言う。
言い方と笑い方がおかしくて、声を出して笑ってしまった。


噂のって、なんの噂だよ。
だからもう、そんな幸せそうな顔するなって。
抱きしめたくなるから。



「ベタだねぇ。これから毎日してやろうか。」


いたずらに笑いながらそう返すと、視線を足元に落とし、「おー」なんてゆう感嘆を小さくもらした空。



「じゃあじゃあ、あれ、しようか!」



ぱっと顔を上げた空の瞳はきらきらと輝いている。
オレが何か分からず首を傾がすと、得意気にふふんと笑いながら一歩程距離を置く。


「邦広、ご飯にする?お風呂にする?」



ご丁寧にジェスチャー付きでやってくれた。
可愛い。もうなんか、可愛いすぎるやろ。


けど、あともう一息欲しい言葉が足りない気がするのはオレだけじゃないだろう。


空は満足しきっているようだけど。

オレの方は今すぐにでもとっつかまえてやりたいのに。




しょうがない。
今回はオレが、言ってあげよう。




オレは空を覆うように抱きしめて頭に唇を寄せた。

そして悪戯に、囁くように教えてやる。
可愛いオレの空にこの気持ちを。





「飯よりも、風呂よりも、今は…空が欲しいな。」





空がオレの身体に腕を回し、きゅっと力を込める。
「ばか」、小さなこえで呟かれた言葉は照れ隠し。








同棲って、かなり良いです。








今まで離れて過ごした分
1ミリの隙間もないくらい
くっついていような。







エンド






アトガキ
「遠い距離」の続編とのことで、勝手に同棲させてしまいました。しかも終始べたべたなバカップルになってしまいました、いつの間にやら。申し訳ないです。瑠菜さま、リクエスト感謝です!ここまで読んで下さりありがとうございました!