私は今日、

あなたに別れを告げる。




遠い距離




遠恋。
別に、なめてた訳じゃない。ちゃんと、寂しくなることは覚悟の上で決めたことだった。

「好き」って気持ちさえあれば、乗り越えられると思っていた。



邦広は本当に、シーズンとかだと全く会えなくなるくらい忙しい。
もちろん、邦広が一生懸命してることを邪魔するつもりなんてないんだけど、やっぱり、



どうしようもなく、会いたいんだよ。


ねぇ、邦広はどう?
私に会いたい?
メールの活字なんて信じられない。
受話器から聞こえる音なんて信じられない。



そう。「信じられない」時点でもう…、



そんな事を悶々と胸にためて、考えているうちに、電車は目的地に到着。

霞む視界をこすって、邦広の元へ行く。

きっと、たくさんの汗をかいているんだろう。
きっと、少年みたいに一喜一憂してるんだろう。
そんな邦広のいるあの、体育館へ行く。



練習中の体育館には、ボールのつく音と、男らしい声が響きわたっていた。


そろそろ練習も終わる時間。
バレーする邦広の姿を見て、再確認。やっぱり、だめだ。


だって、もう、帰りたくない。

一時も離れたくない。




練習後、体育館で談笑でも始めそうな邦広を呼んでみる。

すると、驚いた顔をした後に、ふんわりと笑って、



「待って、今そっち行く!」



と必要以上に大きな声で言われて、すぐに、邦広が私の元へと走ってきた。



「空、びっくりした!連絡しろよ」



困ったように笑う顔。
涙で見えなくなった。



「…空?」



言わなきゃ。



「邦広、別れよう、」


私は足元に視線を落とした。
するとやっぱり溜まった涙は零れて落ちた。


「…なんで?」


冷静に聞いてくる邦広の声が、少し怖かった。



「会いたくて、会いに来たら、やっぱり、また会えなくなるのは耐えらんないって、思ったの。ごめん、もう辛いのは嫌だ。」



声は震えたし鼻声になった。
だけど、そこまで言って、彼の顔も見ずに振り返り、帰ろうと足を薦めた。



すると、後ろから思いっきり引き寄せられた。バランスが崩れた私は全体重を邦広に預けてしまった。


なんとか体勢を整えようと、離れようとしても、がっちりと抱き締められて、どうにも出来ない。



久しぶりの邦広の体。
汗で練習着は湿ってる。

そんな邦広の感触が、どうしようもなく懐かしくてやっぱり余計に悲しくなった。



最後になるのかな。
離れたくないな。

でも、



「邦広、離して、」



「好きだよ。」




耳のすぐ側、私の小さな頼りない声の次に間髪入れずに、そんな言葉を紡がれては、涙が止まらなくなる。
優しい優しい話し方は、私が大好きなところ。




「空、どうしよ。オレ嬉しくなってんだけど。」



意味が分からない。
理解したくもないような言葉な気がして、耳を塞ぎたくなる。



「そんなに、オレのこと好きになってくれてるんだって、思っちゃったよ。」



小さく笑い「どうしようもねぇよな」と続けて言う。



そんな考えに、ぽんっと到ってしまう彼に驚きだ。
「別れる」の言葉を出していても、喜ぶんだから。


邦広の言葉に、胸を突かれる想いがあった。


確かに、好きだよ。大好きだよ。



「なぁ、俺は、好きだよ。空のこと、ほんと好き。空は?」



ズルいよ。そんなの。



「…すき、」



頭で考える隙もなく、口を突いて出た言葉は、紛れもなく本心。



「だったら…別れるなんて、言うなよ。」



抱きしめる腕に力を込められ、少し苦しい。
同じくらい苦しそうなのは邦広の声。



「でも、…好きでも、辛い」



自分が何を言っているのかが分からない。
ただ背中に感じる邦広の熱と、肩を痛いくらいに抱く手の感触を、忘れられる気がしない。



「だったら、一緒に居よう。」



呼吸を深くとった後、邦広は大切そうにそんなことを言うんだから、私の心臓が固まりそうになった。




「空が辛くならないように、ずっと、そばに居る。」



何度も何度も、求めていた言葉。
重たい言葉に乗せて、だけどそれはすんなりと私の胸に響いて。



「離さないから。」



そう言うと、邦広は急に私を方向転換させて邦広と向き合う形になった。



真っ直ぐな瞳に、私は何を焦っていたんだろうと思った。


「ごめんーっ、私、好き、離れたくないぃ」



ぐずる子供のようになってしまった。だけど、やっぱり本心で、溢れんばかりの気持ちで。

泣きながら顔もぐちゃぐちゃなまま喚くと、邦広にまた、抱き寄せられた。



「うん、離さない。ずっと一緒だよ。」



優しい言葉や口調と裏腹に抱く腕に込められた力は強くて、爪先立ちの私は、浮いちゃいそうだった。




「長い間待たせてごめんな?」



覗くように目を見つめられる。
「ほんとだよ」と思って、小さく笑う。





遠い距離が生んだ辛い日々とか、寂しい夜とか、全部相手が邦広だからこんなに苦しかったんだ。

もし、この距離が無かったら、あんな辛くて苦しい想いなんてしなかっただろう。

だけど、こんなにこんなに好きだってことにも、お互いの大切さにも気付けないままだっただろう。



「空、もう泣かない。」



柔らかく笑いながら、私の頬のを暖かく大きな手で包む。


その手で私の顎を持ち上げると、優しく口付けを落とされた。



「私、邦広のために料理つくる。」


「はは、うん、お願い。じゃあオレは…、空が悲しまないようにする!」


「えぇ、もっと現実味のあること言ってよ〜」


「おい。それじゃあまるでオレがいつも空を悲しませてるみたいやん。」


「そうだったじゃない。」


「そ、そうか。すんません。」



フラットな言い合いさえも愛おしくて、
とうとう私は邦広から離れるなんて出来そうもない。




「空、」


「ん?」


「オレもさ、実はあったよ。会いたくて不安になったとき。」



そんな素振り見せたこと無かったから驚いた。

そんな時、彼ならどうしたのだろう。




「でも、オレん中の感覚だったら、会えないことより、別れる方がキツかった。」




そう、いつも意表をつくような考え方。


邦広は前向きだから。
私は、不安になると止まらないから。



やっぱり私は、邦広じゃないとダメね。











エンド





アトガキ
瑠菜さまリクでした!甘々の筈が切甘になってしまった気が。イメージと違っていたら申し訳ありません。もっと軽めのものになる予定でしたが空さん(主人公)終始涙でしたし、本当にすいません!もしよければまたよろしくお願い致します。リクありがとうございました!そしてここまで読んで下さりありがとうございました!